61 / 105
第60話
観光?と言うことは遊びに、行こうと言ってくれているんだろうか?
自分の性癖のせいで引け目があって、そうやって遊びに行けるような友達は作らなかった。
提案されたそれは、思春期から憧れていた行動の一つで。
魅力的な提案だ。
「興味あるとこないか?」
「え 最近は、お城、とか?」
「しっぶいな!じーさんかよ」
「改装されたってニュースで見たから!」
渋いと言われて慌てて言い繕うも、小林先輩の笑いは止まらない。
「えーじゃあ、そこ行くか」
「ええ!?」
「土日使って」
それは 泊りがけで行こうと言う意味で間違いないんだろう。
ノーマルな者同士の、友達としての旅行ならば問題はないと言うことも同時にわかる。
「いろんなとこ回って、泊りがけで行ったら楽しい と、思うんだけど、どうかな?」
言葉が詰まって、手の中のコーヒーが音を立てる。
「ここは、飲食禁止のはずだが」
平坦な声なのに飛び上がった。
その拍子に缶から零れそうになったコーヒーを追う目がひやりとしていて、「お疲れ様です」の言葉が喉につっかえた。
オレが動けないのを察したのか、小林先輩が横目で見てから頭を下げた。
「佐伯部長!すみませんっ直ぐに出ていきます!」
「 」
「三船!行くぞ!」
立ち竦んで動けないオレの手を小林先輩が引っ張った。
温かくて、力強い手に釣られて立ち上がり、引きずられるようにして部長とすれ違う。辛うじて会釈はできたけれど、オレ達を見る目に言葉は何も出なかった。
「 びっくりした!なんであんなとこにくるんだよ」
前を行く小林先輩はそう毒づくのだけれど、以前にもあそこで部長を見かけたこともあるので、まったく来ないと言うこともないはず。
タイミングが悪かったと、言ってしまえばそれだけなのだが……
「やっぱ、めちゃくちゃビビる!」
休憩所の奥にある窓ガラスの傍まで行き、ほっと一息吐く。
ともだちにシェアしよう!