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第60話

 観光?と言うことは遊びに、行こうと言ってくれているんだろうか?  自分の性癖のせいで引け目があって、そうやって遊びに行けるような友達は作らなかった。  提案されたそれは、思春期から憧れていた行動の一つで。  魅力的な提案だ。  「興味あるとこないか?」 「え  最近は、お城、とか?」 「しっぶいな!じーさんかよ」 「改装されたってニュースで見たから!」  渋いと言われて慌てて言い繕うも、小林先輩の笑いは止まらない。 「えーじゃあ、そこ行くか」 「ええ!?」 「土日使って」  それは  泊りがけで行こうと言う意味で間違いないんだろう。  ノーマルな者同士の、友達としての旅行ならば問題はないと言うことも同時にわかる。 「いろんなとこ回って、泊りがけで行ったら楽しい と、思うんだけど、どうかな?」  言葉が詰まって、手の中のコーヒーが音を立てる。 「ここは、飲食禁止のはずだが」    平坦な声なのに飛び上がった。  その拍子に缶から零れそうになったコーヒーを追う目がひやりとしていて、「お疲れ様です」の言葉が喉につっかえた。  オレが動けないのを察したのか、小林先輩が横目で見てから頭を下げた。 「佐伯部長!すみませんっ直ぐに出ていきます!」 「   」 「三船!行くぞ!」  立ち竦んで動けないオレの手を小林先輩が引っ張った。  温かくて、力強い手に釣られて立ち上がり、引きずられるようにして部長とすれ違う。辛うじて会釈はできたけれど、オレ達を見る目に言葉は何も出なかった。 「   びっくりした!なんであんなとこにくるんだよ」  前を行く小林先輩はそう毒づくのだけれど、以前にもあそこで部長を見かけたこともあるので、まったく来ないと言うこともないはず。  タイミングが悪かったと、言ってしまえばそれだけなのだが…… 「やっぱ、めちゃくちゃビビる!」  休憩所の奥にある窓ガラスの傍まで行き、ほっと一息吐く。

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