73 / 105

第72話

 思いの外片付けられている部屋が意外だった。 「小林先輩の部屋、なんて言うか  勝手に散らかっているものだとばかり思ってました」 「まじか。なんだその先入観」  けれど資料室の整頓ぶりを思い返してみれば、片付けが苦手と言う訳でもないのはわかる。  明るいフローリングの床に、無垢の木の家具が揃えて配置されている。照明も白くて丸いおしゃれなもので……  それも、小林先輩のイメージじゃなかった。 「昔、付き合ってた人の趣味ですか?」 「はああああ!?」  久しぶりに鬼の形相で睨みつけられ、慌てて目の前で手を振った。 「全部俺の趣味!」  こつんと額を叩かれ、「すみません」と謝る。 「あんまりにもイメージ違ったんで」 「失礼な奴」  頬を膨らませて怒っている小林先輩に重ねて謝り、持ったままになっていた袋に入った酒をテーブルに並べた。  ラベルを見えるように回して、「どれから飲みますか?」と勧める。   小林先輩が片っ端から籠に入れるせいか、二人で飲むには多い数がずらりと並ぶ。 「甘いものの方が良かったんですよね」 「そうだな、でもまずは風呂入ってからな」  う  と、呼吸が止まったのを気づかれた。  気まずそうに視線を逸らすと、呻き声が零れる。 「  下心は  ないって」  歯ぎしりが聞こえてきそうなのは無視した。 「じゃあ どうぞ」 「や  あの、飲まないのを片付けておくから、先に行ってこいよ」  ここで家主と言い合いをしても始まらないだろうと、一礼して教えてもらった風呂場へと向かった。  詮索する気はなかったのだけれど、初めての場所のせいか視線はいろいろなところに行きがちだった。  一人暮らしにしては部屋数も多いし、ユニットバスでもない、それに建物自体が築浅な感じがする。 「いいとこですね」   素直な感想だった。  物件探しで良い伝手でもあったのかと、自分のアパートを思い描きながらワイシャツのボタンを外す。  洗面所も綺麗に整えられており、一人暮らしの男の家とは思えない清潔ぶりだ。 「部屋余ってるぞ、引っ越してくるか?」 「あはは  」 「意外と本気なんだけど。って、ちょっと入るぞ、着替えが必要だろ?」  ノックもせず、返事も待たずに開けられた引き戸は軽い音で、隠す間もなく服を脱ぐ姿を晒されたオレは、悲鳴を上げるのも違うだろうし、恥じらうのも違うだろうし  と、無駄なことを考えていた。 「タオルこれな」  思ったよりも普通な小林先輩に、男同士だから恥ずかしがる必要がなかったのかと、ほっと胸を撫で降ろす。

ともだちにシェアしよう!