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第85話

「自分の体には自信があるんだな」 「    っ」  急激に頭に血が上ったせいか、視界がチカチカと点滅する。  咄嗟に顔を覆うが、耳たぶまで真っ赤になったのが分かった。  自惚れだったように聞こえたのが恥ずかしくて…… 「 そ、じゃ  ないです」 「そうだったな。上に倣うならそれも秘書業務だったな」 「ちが   」  社長と秘書の関係について聞いたことがある。ただの噂だと思っていたが、義理の息子にあたる部長が言うのだから事実なのだろう。  そう言った意味で社長が秘書を連れまわしているのだとはっきりと言われ、赤い顔がますます赤らんだ。 「こい」  グイっと腕を取られ、スツールから転げ落ちそうになってカウンターに縋りつく。  けれどそれは助けてはくれず……  またハシバミ色に光を見せる部長を恐々と見上げた。 「秘書の仕事の時間だ」  息を飲むオレの気持ちなんかお構いなしに、引きずられていくしかなかった。  ベッドに投げ出されて条件反射的に逃げを打ったが、足首を掴まれてどうしようもなくなってしまった。  悪足掻きとして、小さく静止の声を出す。 「や、やめて  くだ……っ」  布越しにその箇所を押し上げられ、上がりそうになった声を飲み込んで部長の胸を押す。 「それに、  この、こう言うの は   止めたいんです!この関係を  っ」  「終わらせたい」の言葉が、入り込んだ部長の指先に遮られて消える。 「お前が言っていた話したいことは、それか」  頷いて見せるも、奥まったソコを指先で叩かれ、駆けあがってくる震えに小さく歯が鳴った。 「  準備してきておいてか?」 「 これで、終わりにしてください  」 「これで か。もうしない じゃあないんだな」  言葉遊びの揚げ足取りに反論しようとしたが、歪んだような笑みがそれを押しとどめ、 「 っ  これで最後  に」  ワイシャツが剥ぎ取られ、空気に触れた肌が粟立つ。  強引に引きずり下ろされたスラックスが、ベッドの端から落ちるのを見ながら部長のネクタイに手を伸ばした。  滑らかな感触の深い黄色のネクタイ。  どこかのブランドの物だったはず……と、ロゴを見てぼんやり思った。  きっとこれも、奥さんが選んだ物なんだろう。  それから微かに香ったクチナシの臭いに、ツンと鼻が痛んで、視界がぼやける。

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