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レモン・中編

そして数日後、待ちに待った週末。 着替えとお菓子と、忘れずに妹からもらったあの香水を持って清の家へと向かう。 …この前抱きしめてもらえたのが香水のおかげとか思ってるわけでは決してないが、なんというか、願掛けみたいな感じと…あと妹の言葉を思い出すとこれがそばにないとちょっと不安になってしまうからだ。 「…おっす」 「いらっしゃい」 いつものように家の中へ招き入れられるが、昼過ぎなのに家は静まり返っていて清以外人の気配がない。 もう既に家の人は出掛けてしまっているようだ。 「…おじゃましまーす」 いつもよりもちょっと緊張しながら家にお邪魔する。 「栄、お菓子何食う?」 「あ、ちょっと買ってきた。ポテチとかグミとか。はい」 そう言って鞄の中からコンビニの袋を取り出し清に手渡す。 「何?珍しく気が利くじゃん。じゃあとりあえず飲み物だけ持ってけばいっか」 そう言うと清はペットボトルのウーロン茶とコップを2つ持って、自室へと向かった。 いつものようにベッドの下に腰掛けてお菓子を食べながらゲームをして、気が向いたらテレビを見て、ゴロゴロして。 やってることはいつもと同じなのに、オレは清がちょっとでも動く度にドキッとしてしまうほど終始緊張しっぱなしだったが、相変わらず清はいつもの清だった。 相変わらず何の進展もない。こんなに近くにいるのに手すら繋げないないなんて… (あぁ…なんか、期待してたのに結局いつも通りだなあ…) 今まで 何で手つないでくれないのかとか、清に対して思うことが何度も思うことがあったけど でも妹の言ったように、オレのせいでもあるんだろう。 オレが受け身になって、清から何かしてくれるのをずっと待ってるから…だからこんなに悩ましいまま進展しないんだ。 (よし、夕飯終わって、歯磨いたら…) そしたらオレから迫ってみよう。 気合を入れて夕飯に出前したピザを咀嚼してると、清に「ピザそんなに好きなん?」とか呑気なこと言われた。 少し遅めの夕飯を食べ終わり、時計を見ると8時半。 鞄から歯ブラシを取り出し、気合を入れて歯を磨く。 清には「歯磨くの早くない?もうお菓子食べんの?」と聞かれたが、これから初めてキスとかを迫る身としてはしっかり磨いておきたいのだ。 しっかり磨いてしっかりうがいをし、念のために持ってきた香水をシュッとひと吹き。 (…よし、これで口も体も臭くないはずだ) 意を決して清の部屋へと戻ると、清はベッドの前に座ってテレビを見ていた。 「…清!」 「ん?」 キスしていいか?とか言葉にして決心が鈍らないように、深呼吸してからずかずかと進むんで清の目の前にしゃがみ込むと、そのまま勢いに任せてぎゅうっと正面から抱きついた。 「……」 「……」 心臓バクバクの勇気を振り絞ったオレの行動に、清はまさかの無反応。 抱き返すこともなければ突き放すこともない。 なんか不安になって少しだけ体を離して清の顔を見てみると、いつもよりちょっと照れたような驚いたような、何とも言えない表情をしていた。 (…このまま、キスしてもいいかな…) 20cmくらいの間近に顔があるのに、清の反応を見ただけでさっきまでの決心がもう揺らいでしまい、そのままじぃっとしていると、まさかまさかで清の方からオレに近づいてきた。 「……っ」 (キスされる…!) 咄嗟にそう思ってぎゅうっと目を瞑ると、清の顔がオレの顔と0距離になり、頭と腰をぎゅうっと抱き寄せられた。 「……」 「……」 …だけどキスはされなかった。 距離は0なんだけど、清の顔はオレの前ではなくて右の真横にあって、頬ずりされるように首元に顔を埋めてからスンと鼻を近づけられて…なんだかすごくこそばゆい。 (…なんかちょっと拍子抜けだけど…でも嬉しいかも…) そう思ってると清がもう一度首元をスンスンしてから、ゆっくりとオレから離れた。 「…栄、風呂、先入る?」 「…え?あ、うん…!」 この流れからの風呂の話に、キスよりも先の想像をしてしまうのは、思春期男子なら当たり前だろう。 はやる気持ちを落ち着かせながら「お先に借りるな」と言って着替えをバッと持って風呂場へ向かった。 いつも風呂はカラスの行水並の速さで済ませるのだが、今日は洗い残しの無いようにいつもより慎重に洗う。 人ん家だというのに、シャンプーもいつも1回だけど2回やってみた。 …そんな風に念入りに洗いまくってやっと納得して脱衣所に出たら、なんと風呂に入ってから40分近く経っていた。 (40分て…女子か!) 心の中で自分を突っ込みながらとにかく急がなきゃと思い、慌てて服を着て、髪はびっしょのまま肩にタオルをかけて急いで清の部屋へと向かった。 「お先ありがとう。気持ちよかったー」 「おかえり」 清は立ち上がって近づいてくると、オレの肩にあるタオルを引っ張って、ぱさっとオレの頭へとかけた。 「頭びっしょじゃん。ちゃんと拭いとけよ」 「…わかってるよ」 そう言いながら顔にかかったタオルをよけようとすると、ぎゅうっと前から清に抱きしめられる。 「……っ」 「……」 ビックリして固まっていると、スン、とまた首元に鼻を摺り寄せられるようにされて、こしょっぱくて思わず肩をすくめてしまう。 それから清はオレの肩元で深呼吸をしてからゆっくりと体を離し、 「オレも入ってくんね」 そう言って部屋を後にした。 (…っやばい!予想以上にいいムードじゃんか!!) 清が部屋を出た瞬間、昼間までの落ち込みなどすっかり忘れて、その場で身もだえ蹲る。 しばらく悶えてから髪の毛がびっしょなのを思い出し、慌ててガシガシガシ!っと髪の毛の水けをきり、 ドライヤーはどこにあるか知らないから鏡を見ながら濡れた髪がヘタリすぎて変にならないように、ちょっとふんわりと整えてみた。 そして思い出したようにシュシュッと香水をつけて、清が風呂から出てくるのをドキドキそわそわしながら正座して待った。

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