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 繋いだ右手の感触から、佐藤の反応が遅れた事が分かった。衝撃に備えて固く目を瞑った瞬間、ハンドルを放棄した佐藤がオレの上に覆いかぶさった。  オレの記憶は、そこで途切れている。  次に目が覚めると病院らしい部屋のベッドの上で寝ていて、姉の小夜子が傍らでしくしくと泣いていた。 「…ねぇさん?」 「圭吾?」  姉に伸ばした左手にはぐるぐるに包帯が巻かれていたが、痛みは感じない。  麻酔が効いてるんだろうか?  切れた時が痛そうだな… 「よかった」  姉が安堵の笑みを浮かべる。  優しい笑みだ。  家族の中で、姉だけがオレに笑顔を向けてくれる。  両親は、オレの存在をいないかのように振舞う、  …なぜなら、オレが、…ゲイだから…

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