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「私…変な勘違いしてた?」
「オレじゃなかったらテーブルひっくり返して怒る所だよ?」
雰囲気を変える為にわざと軽く言うと、しょんぼりと肩を落とした姉が頬を膨らませる。
「だって…なんだか大事にしてるし……圭吾が同じの持ってたの知ってたから」
「同じのって……コレ、一点物じゃないんだからさぁ。あんまりアクセサリー買わない人はよっぽど気に入ったのしか買わないから、大事にするんじゃない?オレのは恭司に買ってもらったけどね」
「恭司さん…て、引越しの時の人よね?」
「そ。オレの恋人」
そう言うと、姉はオレと恭司が抱き合っていたのを思い出したのか、ぽっと頬を赤らめた。恥ずかしそうに俯く姉の顔から、翳りが無くなったのを見て胸を撫で下ろす。
「恭司がオレの、恋人だよ」
もう一度重ねる様にそう言うと、翳りのなくなった顔で困ったように笑った。
「圭吾の言うとおりね」
姉の言葉に頷いてみせたが、テーブルの下で握り締めた拳は滴りそうなほど汗で湿っていた。
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