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頭痛で起き上がれないオレの傍らで、恭司が不機嫌そうな声で薬を飲むように促してくる。
「無茶するから。アル中になったらどうするつもりだったの?」
「だって、恭司が意地悪するからさぁ…可哀想だろ?」
ビールで酔い潰れた佐藤の寝顔を思い出し、切なくなって目を閉じる。
「なぁ、昨日の人…」
何か言いたそうな恭司に首を振って見せた。
恭司が何を言いたいのか良く分かる。
「…義理の兄だよ」
そう言いながらベッドから起き上がり、二日酔いの薬を水で流し込むと、少し拗ねた様な恭司の背中に話しかける。
「なぁ、恭司」
「んー?」
「ピアス、買いに行こうか」
ぱっと振り向き、目を見張った恭司は、すぐにその表情を隠していつものへらへらとした笑顔を見せた。
「行こう!」
「痛いかな?」
耳朶を気にするように尋ねると、優しい手つきで恭司の指が耳を撫でる。
「痛くないように開けてあげる」
「…うん」
そう答え、左手の指輪を外して恋人に微笑みかける。
あの人と、姉さんの幸せそうな笑顔を思い出しながら…
オレには、あの笑顔を曇らせる事はできない…
END.
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