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 間接照明に照らされた階段を下りていくと、『gender free』と小さく書かれた木製の扉が見えた。  躊躇いながらその扉を開けると、頭のすぐ上でカランと木製ベルの軽い音が響く。 「いらっしゃい…あ」  カウンターの中でグラスを拭いている人物がこちらを向いた途端、微かに目を見張り、直ぐにそれを隠す為に笑顔を見せた。 「お久し振りです、御無沙汰してしまってすみません」  そう堅苦しく挨拶しながら、目の前のカウンターを勧めるのでそこに腰を落ち着ける。 「烏龍茶でいいですか?」 「ああ」  返事をしながらきょろ…と辺りを見回すと、烏龍茶をグラスに注ぎながらぷっと彼が吹き出した。 「店長はまだ来てないですよ」  そう笑う彼が、半年程前の事を思い出しているのは明らかだった。  グラスに並々と注がれたお酒を思い出すと、こちらも自然と苦笑が漏れる。  笑う彼を、カウンター越しに見つめた。  少しほっそりして、成人してはいたもののどこか幼さを含んでいた雰囲気はなくなっており、伸びた黒髪を耳にかける仕草をすると、青い石を使ったピアスが目に入る。  以前はつけてなかったな…と思いながら、烏龍茶をカウンターに置こうとした彼の左手を掴んだ。  すらりとした長い指を持つ手に、怪我の跡を見つける。  指輪は、ない 「あ、あの…お義兄さん?」  引っ込めようとしたので、掴んだ手に力を込める。  そして、彼の名前を呼んだ。 「ケイト」

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