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 捨てようと、きつく心に決めた筈のメモはまだ手の中にある。  毎晩、毎晩、それを捲る。 『ケイトと会う』 『ケイトとホテルへ』 『ケイトと…』  そのメモを見ていると、薄ぼんやりとした記憶が鮮明になるような気がした。 「ケイト…」  小夜子とは、相変わらず別の部屋で寝起きをしていた。仕事があって、夜遅くまで起きていないと駄目だから…と言う嘘を、バレていると知りつつ毎日繰り返す。  彼女は辛抱強く、「はい」と返事をくれる。  オレは…彼女にもケイトにもどうしていいのか分からなかった。  いや、答えとしては簡単な事だった。  ケイトを義弟として、小夜子ときちんとした夫婦生活を送ればいい。そうすれば、きっと彼女は何事もなかったかのように、良い妻、良い母になってくれるだろう、そしてケイトは今の恋人である谷と幸せに暮らせる。  そうすれば、丸く収まる。  小夜子も、両親も、ケイトも、誰も苦しまない。  オレ一人が我慢すればいい事だ。 「オレ一人が…」  そして、ケイトは他の男に抱かれる…  ぎりぎりと奥歯が鳴る。  それだけはどうしても許せなかった。  許せない…  もう居ても立ってもいられなかった。部屋着を脱ぎ捨てて服を着替えると、机の引き出しの奥を探る。  薄暗い照明を受けて光る指輪を握り込み、オレはそっとマンションを抜け出した。

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