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ただ
ただ
彼を抱き壊してしまいたかった…
胸を焦がす思いだけを思い出していた。
今まで何人かと付き合ってきたが、そんな激情に駆られたのは初めてだった。
「…やつれてきてないか」
年末、急に呼び出しの電話を掛けてきた誠介にそう言われ、どうだろうかと考える。
「少し…眠れてないからかな」
「この時期、仕事が忙しいのか?」
「…いや」
そう低く返しただけで察しをつけたのか、誠介は口を閉ざしてしまった。
それを分かっていて、理由を喋る。
「夢を見るんだ。いや…夢なのか…?寝る度に、思い出すんだ……」
「……思い込んで、そう言う夢を見てるだけだ」
相変わらずのヘビースモーカーは、紫煙を吐き出しながら言う。
「…………そうか」
思い込み…そう言われれば、そうなのかもしれない。
メモを見て、そう記憶を作ってしまっているのか…?
「で、用事は?あんまり長い時間は取れないんだ」
「忙しそうだな。…いや、どうしてるかと思っただけだ」
そう言って煙草を灰皿に押し付ける誠介に、笑みが漏れる。
連絡を取らなければ、取らないままに1年音信不通など当たり前の彼が、気にかけて連絡してくるのが面白かった。
「悪いな」
「まぁ、生きてるならいいか」
飯でも奢れ…と言う誠介と師走の騒がしい街中を連れだって歩く。
「蕎麦とかでいいか?」
「肉、肉食わせろ」
「牛丼な」
「もっと分厚いの食わせろよ」
「…………」
「……おい?」
昼時の、人でごった返した街の中、何故見つけてしまうのだろう?
谷とか言う奴と連れ立って歩くケイト…
嬉しそうに笑う彼の横に、何故オレはいない?
「おい!!」
ネクタイを掴んで振り回され、そちらに視線を戻す。
「どうして…他の奴の隣にいるんだ」
「佐藤!」
「………西宮だ」
う…と言い淀んだ隙に、手を払って駆け出した。
ケイト達のいる向こうの道路へ渡れる場所を探す。
「さと…っくそ!秋良!!止まれ!!」
捕まれた手を振り払う。
駆け寄って、谷の代わりにその横に立てば、ケイトの笑顔はこちらを向くだろうか?
「また…前みたいに、手を繋いで歩…」
「歩けるわけねぇだろ!!お前は圭吾の義兄なんだぞ」
…兄…
その言葉を噛み砕く。
「…すまん……」
ぽん…と背中を叩かれ、ケイト達と反対の方向に促される。
その促しのまま、オレは歩き続けた。
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