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おろ…と戸惑った表情で、部屋の方を指差す。
「布団の…」
枕の所に…と呟くのを聞いて手を引いて歩き出す。
オレが手を引くと、ふら…と力ない動きが伝わってくる。
調子が悪い人間に腹を立てている自分がみっともなく思え、ゆっくり息を吐いて気持ちを落ち着けた。
枕元に置いてある指輪を見つけて、その指に嵌める。
「…できるなら……もう外さないでくれ」
「……ごめん。怒ってる?」
怒る…と言うよりは、切なかったけれど、「怒ってる」と伝えると、はっとケイトの目が見開いた。
「ケイトが俺を頼ってくれなかった事に」
「…悪かったよ」
謝罪しながら頭をこつりと寄せてきたケイトの匂いが、鼻をくすぐる。
さんざん抱いた後の、汗にまみれた時の匂いに似ている。ねっとりと濃厚さのある妖艶な匂いに体が疼き出す。
一週間、彼を抱いていない。
その事実が、今更のように理性をすりつぶし始める。
肩に頭を預ける彼の体は、明らかに熱を持っていた。
抱いて…壊せば、ケイトをオレの傍に置いておけるだろうか?
彼を部屋に閉じ込めて、全ての面倒をオレが見れば、他の男の目に触れさせずにすむ。
その考えにとり憑かれて、ケイトの唇を奪う。
甘い唾液に、目眩がした。
これを味わった男が他にいると考えただけで、腸が煮えくり返りそうになる。
つ…と、指先で産毛を撫でるようにするだけで、彼の体はビクリと跳ねて震え、絡ませた舌の上を熱い息が流れ始めた。
彼がよく感じる、腰骨の辺りの薄い皮膚をくすぐる。
「ん……風邪…うつるよ?」
「うつらない」
ケイトを抱き壊して、面倒をみるのに、オレが風邪をひいてなんかいられない…
「ん…ホテル行こっか」
「いやだ」
今、すぐ、誰の目にも触れないようにしてしまいたかった
「ふ…ぁん…っダメだって、ここ壁が…」
アパートの壁が薄いのは、一目見ただけでわかっていた。
情事の音が聞こえれば、もしかしたらケイトを狙っているかもしれないアパート住人を追い払えるかもしれない…と、唾液で唇を濡らしたケイトを見て思う。
今まで、独りで住まわせるなんて、馬鹿な事をしていた。
こんな魅力的な人間が、狙われない筈がない。
そんな事にも気付かず、一週間も放置した自分を呪った。
「我慢できない」
そう言うと、ケイトは母親が子供にするような「仕方ないなぁ」と言う顔をして、オレの肩を掴みながら布団へと転がる。
「暑いのと汗臭いのは我慢しろよ?」
いつもより高い体温を感じながら、オレはケイトを組み敷いた。
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