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薄暗い店の裏で、ケイトは泣きそうな顔をしていた。
慰めたくて、震える唇に手を伸ばそうとしたら払われた。
「あの…店、俺も恭司もいないと回らないから…話があるなら早くして下さい」
その堅苦しい言葉に戸惑い、細い肩を掴む。
「ケイト」
「圭吾です」
肩に置いた手も、振り払われた。
「どうして…?」
「…………あんたは、義兄さんだ」
くっきりとしたアーモンド型の瞳に、拒絶の色が浮かぶ。
「姉さんの…夫だよ」
振り払われた手でもう一度その肩を掴む、振り払われないように渾身の力を込めたせいか、ケイトは顔をしかめて低く呻き声を漏らした。
ケイトの言葉を、否定したかったけれど出来なかった。
「………思い…出したんだ…」
「…」
「まだ沢山抜けている所もあるけど、オレ達の事思いだ…」
「思い出すな」
「…え?」
ぎゅっと更に力を込めると、こちらを睨み上げるケイトの目に涙が滲む。
「忘れたままでいろよ。沢山抜けてる様な記憶なら、ないのも同然だ。忘れろ」
ケイトが痛いだろうとか、掌にぎしぎしと骨の軋む音が伝わってくるだとか、そんな事はどうでも良くなった。
ただ…
突き放された事が、信じられなかった。
なんとなく、心か頭かのどこかの片隅で、記憶が戻ったと言えばケイトがぱっと微笑んでくれるのだと信じていた。
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