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秋良を引き取った両親はとても良くしてくれた。
他の普通の血の繋がりのある家庭よりも肌理細やかに構われ、どんな小さな問題も真摯に向き合い、話をし、愛情を注がれた。
けれど、それは時として秋良が養子であると、三人に血の繋がりがないと知らしめるぎこちなさともなった。
だからこそ、血の繋がる子供と、その母親である妻と共に苦しい道を歩き、手を取り合いながら特別な山に登ってみたいと思った。
学生時代から頻繁に登山に出掛けていた秋良だったが、そう言った思いから日本のシンボル的な富士山には足を運んだ事はない。
いつか家族で登る事を夢見て、何者にも揺るがず聳え立つ富士を見ていた。
家族で登りたい。
登山に興味のない義父母には言った事はない。
自身に家族が出来るまで、絶対に登らないと決めた山。
だからこそ、義母が富士で事故に遭ったと言った時、すぐに嘘だと分かった。
「…今でも、思ってるよ」
自身の面影のある子供と傍らで優しく笑う妻と、手を取り励まし合いながら道を登る姿を…
「小夜子さんとなら、それが出来るんだぞ?」
「………」
考えた事がない訳ではなかった。
小夜子は本当にいい妻だった。
いい母親にもなるだろう。
自分の血を継いだ子供を宿した腹を抱える小夜子を、想像した事がない訳ではない。
きっと、幸せだろう。
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