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「本当なら、お前の持っている片割れも処分したい位なんだからな!」  まだ伸ばしてくる手をはたき、体を斜にして手の中の指輪を全身で庇うと、そっと手の中を覗き込んだ。 「………ないんだ」 「は?」  訳が分からずに訝しむ誠介を見もせず、手の中の銀色の輪を見詰めたままぽつりと懺悔の様に、悔しさを滲ませて呟いた。 「…無くした」 「無くした…て、『keito』って彫ってある方か?」 「ああ…」  その答えに、ほっとした表情になりかけて慌てて顔を引き締め、わざとらしいしかつめ顔を作って頷いて見せた。 「そうか、それは辛かったな」 「…本心じゃないなら言うなよ」 「バレちゃしょうがないな」  いつものどこか人を食ったかの様なにやりとした表情を作り、誠介は煙草を取り出して秋良に断りを入れる事無く目の前で吸い始める。  紫煙を吐かれ、秋良は煙たげに眉をしかめて首を振った。 「お前は一体何がしたいんだ?応援するみたいな事をしたかと思ったら、反対するような事をしたりするし…」 「俺は、友人に幸せになって欲しいんだ」 「俺の幸せは…」 「ストップ!聞かないからな。不本意な結婚をするよりは男だとしても、好きな奴といた方がいいと思ってお前に出会い系なんか勧めたけどな?…普通に女と結婚して、普通に生活してるなら、そっちの方が幸せに決まってんだろ?」 「俺は…」  ぎゅっと灰皿に煙草を押し付けた誠介が、じろりと秋良を睨みつける。 「昔、お前が言ってた夢は何だった?」 「え…?」 「お前は『俺に奥さんと子供が出来たら、家族で富士に行くんだ』っつって目ぇキラキラさせて言ってただろが、忘れたのか?」 「いや、…覚えてるよ」

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