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 腕を掴まれ、乱暴に部屋へと引き込まれてたたらを踏む。 「いっ…」 「薬、塗ろうか」  明かりを灯す間もなく恭司にベッドへと突き飛ばされ、圭吾はベッドで弾んだ体を捻ってそこから降りようとした。 「薬なんかいらな…っ」 「塗って上げる。そう約束したろ?」 「約束じゃねぇよ!止めろって!自分でできるっ」  カーテンの隙間から漏れて部屋を照らす明かりに、恭司の無表情が浮かぶ。  モノクロに沈んで見えるそれにひやりとした恐怖心が沸き、圭吾は後ずさろうとベッドの縁に手をかけた。  ずる…とシーツで滑った手では体を支える事が出来ず、明かりが点いていなくて良かったと思える無様さでベッドの上から転げ落ちた。 「ぅ…あっ!」  ごっ…と、肩がフローリングにぶつかる音に身を硬くする。  骨を抉る様な鈍痛が右肩から全身へと駆け抜け、圭吾はその痛みに体を丸める様にして小さく唸った。 「ぃってっぇ」  微かな足音を伴う気配が傍らに立つ。  何か声が掛けられるかと圭吾が思った瞬間、庇う様にして抑えていた右肩を恭司の大きな手が握り締めた。 「――――ぁっ!!ぅっ、あっ」  痛いから放せ…と言おうとした言葉が喉から出ず、小さな呻きを漏らして圭吾が逃げようともがく。 「どうして逃げる?離さないよ」 「あああああっ!!」  更に込められた力に屈し、圭吾の悲鳴が上がる。  暴れ、もがいて腕を引っ掻くが、恭司の腕はそんな事では揺るがず、乱暴に圭吾をベッドへと引き摺り上げてそこでやっと力を緩めた。

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