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 相変わらずの居酒屋で、相変わらずむさ苦しい髭面の誠介が手を振る。 「あ?何笑ってんだ?」 「お前だけはほんと、変わらないなぁ」  苦笑しながら腰を落ち着けると、既に2杯程飲み干されたビールジョッキがテーブルの上に転がっていた。 「待てなかったのか?」 「お前のペースで飲んでたら、俺は全然酔えないだろうが」  店員を呼び止め、新たにビールを注文する誠介の底なし具合に閉口する。 「忙しそうだなぁ…」 「すまんな、何度もドタキャンして」 「いや、まぁ…しょうがねぇさ」  髭同様のぼさぼさの頭を掻き、にやりと笑う。 「俺はしがない貧乏探偵だけど、お前は前途有望と来てんだからな」 「嫌味か?」 「嫌味だ」  互いにぷっと吹き出し、届いたばかりのジョッキを掴む。 「相変わらずの貧乏に!」 「忙殺されそうな日々に!」  かちんと小さくジョッキを合わせ、秋良は申し訳程度に口を付けて下ろした。 「でも…まぁ…前途有望なのかどうなのかってところだな」 「そうなのか?」 「河原の義父の会社って言っても、俺は余所の会社の人間だからなー…」 「…やっかみも多いか」 「やっかみって言うか…肩身は狭いな」  苦笑いしてつまみに手をつける。

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