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圭吾が飛び出してからあちこちを探し回った。
あのアパートに帰ってくるかとも思い、ひと月以上あの部屋をそのままにしておいてもらったがそれも意味がなかった。
部屋に置かれた荷物を取りに帰るような事もせず、圭吾はぷつりと姿を消した。
「…け……ぃ…」
ほんの数日、共に暮らしたあの部屋で圭吾の面影を追い求める。
なぜあの時、記憶をなくしてしまったのか…
なぜあの時、あの手を離してしまったのか…
なぜあの時…
なぜ?
自問自答を繰り返す。
擦り抜けてしまった愛しい存在の残り香を掻き集めながら、秋良はこれが周りを傷つけても圭吾と共にいたいと願った自分への罪なのかもしれないと繰り返し呟いた。
「圭吾…」
呼んでも応えなどないと分かっていながらも繰り返す。
静まり返ったその部屋が、そのまま秋良の心を映しているようで…
う…と小さな呻きと共に涙が落ちる。
嗚咽と哀しみにまみれながら、たった独り残された小さなその部屋で…
ただひたすらに…
圭吾が幸せであるようにと願った…
END.
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