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「圭吾が…教えるなって?」
「…ええ。あんたに…」
恭司は言葉を区切り、グラスの表面に浮いた雫が仲間を集めながら落ちるのを眺めた。
「…幸せになって欲しいからって」
きゅっと秋良の眉間に皺が寄り、ゆるく頭が振られる。
「俺の幸せは…」
「あんたのっ」
急に出された恭司の強い声に店内が一瞬静まり返った。
落ち着いた音楽が何事もなく流れるに従い、店内の恋人同士の会話も戻っていく。
それを待ってから、店内の雰囲気を壊さないように潜めた声が零れ落ちる。
「……あんたの幸せなんか知ったこっちゃない。…ただ……」
苦い、苦い物を口に含んだように顔が歪む。
「俺は俺の大事な奴の願いを叶えてやりたいだけだよ」
例えあんたが泣くことになっても…と恭司は続けた。
「…圭吾が、泣くことになっても?」
「ケイが自分を犠牲にする事を望んだのならな」
自嘲気味な笑みが浮かぶ。
「――――もう、俺にできるのはそれ位だ」
話は終わったとばかりに恭司はグラスを取って拭き始める。その姿からはこれ以上は何も話さないと言う断固とした意思が見え隠れしており、秋良は習慣になった眉間の皺をさらに深く刻ませて立ち上がった。
支払いを首を振って拒否をする恭司に小さく頭を垂れ、秋良は店を後にした。
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