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『店員さんもちょー困っちゃいます』
震える拳を握りしめたまま、圭吾は唇を噛み締めた。
「じゃあ、何処のホテルがイイかはまかせるよ」
「……」
「ホテルが嫌なら、そこの公園でもいいぞ?昼間っから茂みでごそごそやってたら…ギャラリーも増えそうだよな?」
男の手が圭吾の拳を握る。
その不躾な温かさに嫌悪を感じて圭吾はとっさに身を引いた。
「あっ!」
ガタンと椅子が動く音と共に小さな声が上がる。
圭吾が慌てて振り返ると、ウエイトレスが盆の上で倒れたグラスを直すところだった。
盆に受け入れきれなかったジュースがぼたぼたと床を濡らす事態に、圭吾ははっと身を竦ませる。
「っ……ご…め……」
「ケイト、ほら、ちゃんと謝らないとダメだろ?」
にやりと笑いながら男はおろおろとする圭吾の傍らに立つ。
「大丈夫ですよ。すぐに拭きますね」
そう言うウエイトレスの前で、男の手が圭吾の頭を押さえて下げさせる。
「ちょ…っ自分で謝れるし」
「すみませんね、頑固で強情で…」
「いえ…」とウエイトレスは苦笑を漏らす。
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