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第2話

   夜ごと夢で愛された。  混乱したが、夢の人が恋人でないことに気づいて、安心した。  むしろ、夢でこの身体を満たしてもらえるなら良いかな、と思った。   身体の乾きは辛いから。  12の時から抱かれ続けた身体はどうしても欲しくなってしまうから。  この数年、自分を慰める度に、自分を嫌悪してきたから。  指では足りないから、ディルドやローターを使って奥まで慰める度に、その挿れるものを誰のモノだとおもってするのかを考えて、情けなくなってた。    夢は自慰じゃない。  服は汚しても。  それにその夢は優しかった。とても、とても。  「お前のモノだ。お前だけのものだ」  何度もそう囁いてくれる。    「何でもしてやる・・・なんだって」  そう優しく何度も囁いて、本当に何でもしてくれた。  淫らで優しい夢に溶かされた。  そして、朝の目覚めは快適なのだ。    昼間は樹の下の影で本を読み、キーボードを打つ。壊れかけてた才能が戻りつつあった     あの人に捨てられる前にその才能を認められ、何作か書いてそこそこ売れたけれど、捨てられて、書けなくなった。  でも、今、オレはまた書けるようになった。  無くしたようになっていた感情ももどってきた。  樹に囁いた。  今まで誰にも言えなかったこと。  黙らせられてきたこと。  12才から、夜毎にだかれ続けてきたこと。  誰にも言ってはいけなかった。  それが毎夜のようでも。  これが恋だと知るより早く、咥えてなめて、中でイクことを教えられたこと。  ゲームで遊ぶ代わりにしゃぶり方を教えられたこと。  あの人が全てだったこと。  頭を撫でて誉めてもらうために何でもしたこと。  最初の頃どんなに痛くても耐えたこと。    あの人が眉をひそめるだけで「嫌わないで」と膝をついて懇願したこと。  樹に話す。  進学も何もかも、あの人が決めたこと。  在学中に書いた物が認められ、何冊か書いたこと。  それはその頃、一人残されることが増えた夜に書かれたこと。  それが意外な成功をよんだこと。  書いてる間は何もかもをわすれられたこと。  それでも、たまに抱かれる夜に嬉しくて泣いて蕩けて、それを見てあの人が嬉しそうだったこと。  でも、終わった。  あの人は何の未練も見せなかった。  最後の晩にはいつも以上に泣かされはしたけれど。  久しぶりの夜にまた泣きながら喜び、あの人は満足そうに笑った。  優しく抱きしめられ、髪を撫でられながらその言葉を聞いた。  「もうすぐ結婚するから、今までのことは忘れて欲しい」  それはいつも誉めてくれる声と同じ調子で言われた。  「もう会わない方がいいね。君ももう卒業だし、もう一人で生きていけるでしょ。困ったことがあったら弁護士に電話して。何でも言っていいんだよ」  優しいキスをくりかえしながらいわれた。  本気でもう会うつもりがないのだと悟った。  その言葉に何も言えなかったから、何も言えず従っていたから、やっと自分が支配されていたのだと理解した。  言われるがまま、翌朝には出て行った。  拾った犬をまた捨てただけのこと。  もう飽きたから。  そうなんだってわかった。  壊れた。  数年引きこもった。  でも、その間中ずっとその男のことを考え続けた。  長年支配して、身体を好きにし、その挙げ句女と結婚し、捨てた男のことを。  引きこもり自慰に狂った。  快楽を通してでしかぬくもりを知らなかったから。  ディルドで後ろを貫き、指で乳首を弄り、何度も何度も吐き出した。  でも体温すらあたえられなかった。  誰にも話せなかった。  話すことも禁じられていたから。  でも、やっとこの家で、この樹の下で癒されているんだ。  そんな話を樹にした。  もう傷つけられたくないと。    そう言って樹の下で泣いた。  樹に持たれて眠る。  樹はまるで優しい恋人のよう。  そんな夜は夢の中でいやらしくそして優しく愛されていく。  「もう泣くな・・・」  そう優しい頬を撫でられる。  深く奥まで貫かれたまま  あの人よりも深く入られて、揺すられる。  それが良かった。  緑の匂いのする首筋にしがみつきながら、歯をたてる。  自分の印。  つけられてもつけたことはなかった。  怖い位の深さに泣かされる。  でもこのまま貫き殺して欲しいともおもう  オレをもう壊して欲しかった。  「壊さない。でも、癒やしたい・・・」  優しく囁かれ、でも新たな奥まで入り込み、身体の全てにつけられた、あの人の色を消していく。  「感じてくれ・・・お前が感じるままに・・・」  教えられる快感ではなく、感じる快感を夢の中で教えられる。  朝になれば、引きこもり弱っていた身体が少しずつ回復しているのを知る。  そして、樹と話す。  言えなかった辛さを樹に吐き出し、そしてバラバラになった自分をつなぎあわせ、立ち直っていく。  思いを文字にして、新しい物語をつむぎながら。  静かな田舎の古い家。  古い樹の下で。  オレは癒されていく。  生まれて初めて幸せなのかもと思った  幸せなのだと思いこまなくても、良かった。  出版社に送る原稿を持って郵便局へいく。  あの家ではネット回線がないのだ。  携帯さえ繋がらない。  でも、それでいいと思ってた。  買い出しで見かけるだけの村人達が、何故かこちらを見てくる。  不思議におもう。  あれほど距離を置いていたのに。  彼等は近づきたがっている。    とうとう一人の村人に恐る恐る聞かれた。  何もないか、と。  その怯えた様子に笑った。  数週間前、この村に来た時はわらうことさえ忘れていたのに。  人と話せるほどに回復していたからオレは聞いた。  何かって?  村人は言う。  あの樹は嫁を娶るのだ、と。  でも、あんたは男だから嫁じゃないからすぐ死ぬと思った、と。  女で独身でそして樹と結婚すること。  それがあの家に住む条件なのだと。  その条件に満たないものはすぐ死んで、条件を満たしたものは死ぬまであの家に住み、裕福に暮らした、と。  家を離れることと、その婚姻を破る以外はどんな願いでも叶えてくれるんだ、と。  だから昔から有力者があの家に娘を嫁がせたがったのだと。  でも、樹がその娘を娶るかはわからなかったのだと。  初夜に娘の元に誰も来なければ、樹との婚姻は為されないのだと。    初めて来た夜から繰り返される夢が思い出される。  まさか、と。でも、同時にそれでもいいかと思った  夢で聞いた。  オレは花嫁?  その人が言う。  優しいキスを身体中に落としながら。  私の花嫁だ。と。  分かっていたから、少し笑った。    甘く胸を吸われて喘ぐ。  前の花嫁は?  聞いてみた。  要らなくなったの?  そう心配になって。  みんな、死んでしまった。  人は長く生きないから。  悲しい声だった。  心の底から悲しんでいた。  嬉しい。   そう思った。  あの男が今ではきっと自分を思い出しもしていないことを知っていたから。  忘れないで悲しんでいてくれることが分かって。  死ぬまではオレだけ?  それは震える声で言った。  どうしても。  どうしても。  これだけが望みだったから。  お前だけだ。  その人は言った。  満足した。  裏切らないから。  だって人間じゃない。  だから嘘などない。  そして、これは夢ではない現実だと理解して抱かれた。    強請った。  飲ませて欲しいと。    自分からそこにむしゃぶりつき、扱き、吸い、舐め、飲んだ。  オレの男のモノだった。  オレだけの男。  全部オレのモノ。  嬉しくて出した後もしゃぶり続けた。  苦笑して「もう許して欲しい」と言われるまで。  「オレのなのに」  と泣いたら、優しくキスされて囁かれた。  「中に挿れてもっとお前のモノにして欲しい」と。  泣きながら頷き、自分で解した。  一刻も早く、自分の男が欲しかった。  また苦笑されたけど、構わない。  こんな姿を見ても、逃げない。  だってオレのだ。  挿れられて泣いてイキ、擦られて泣いてイク。  ずっと濡れつづけ、ずっとイキ続けていた。  「泣かないでくれ・・・酷いことをしてるみたいだ」  オレの男が言う。  それが嬉しくて、また泣いた。  締め付けてしまう、絞ってしまう、腰が勝手に揺れる。    吐息と共に奥に吐き出され、また泣く。  「オレの・・・オレの・・・オレだけのだ」  オレは叫んでオレの男の首筋に歯を立てる。  男が嬉しそうにわらう。  抱きしめてくれる。  「お前のだ。お前だけの」  そして、その男だけが知る、一番奥へと入っていく。  「いいっ・・・オレ、気持ちいい!!気持ちいいんだ!!」  オレは叫んだ。    「気持ちいいでしょ?、これ、好きでしょ?」  教え込まれた夜、  「気持ちいい」  そう答えるしかなかった夜をオレの叫びが壊す。  ああっ  いいっ  イクっ   イクっ  オレは泣いていたし笑っていた。   快楽に狂った。  これはオレの快楽だった。  教えこまれたセックスじゃなくて、オレを愛してくれる男とオレが見つけた男とするセックスだった。  「お前は・・・お前は・・・素晴らしい」  オレの男が言った。  一番奥に注ぎ込みながら。  「愛してる」  男は愛を誓った。  その愛に嘘はない。    だって人間の愛ではないから。  オレは幸せに溺れた    オレが死ぬ日まで、オレは愛される。  それがどんな奇跡なのか・・・オレが一番知っていた。  「愛してる」  オレも愛を誓った。  これは愛ではないかもしれない。  でも、もう手放せない。  ずっと欲しかったから。  その作家は年老いて死ぬまでその家に一人暮らした。  不思議な物語をかきながら。   一人で暮らしているはずなのに、たまに訪れる編集者は誰かの気配を感じることがあったという。  そして、その作家が死んだ後、永くその家に在った樹がたった一晩で枯れてしまったのも・・・不思議な話となった。   END

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