「一つだけ…聞いて良いですか？」 悩んでいると、海が先輩にそう声を掛けた。 「なんだよ」 鬱陶しそうに海を見ると 「和哉さんの身体と顔、殴ったのはあなたですか？」 と、怒った声で聞いている。 「聞かなくても分かるだろう？」 「わかりません。何故、好きな人にこんな事が出来るんですか？」 「和哉が悪いんだよ。俺が折角、抱いてあげるって言ってるのに抵抗するんだから」 先輩の言葉に 「何言ってるんですか？あなた…自分の言ってる事、わかってるんですか？」 海が声を荒げて先輩を煽る。 「全部こいつが悪い！俺の言うことを聞かないから、しつけをしてやっただけだ！」 「しつけって…殴るのがしつけですか？」 「殴って無い」 「嘘付かないで下さい！見れば分かります。あなたが手で和哉さんの顔と身体を殴ったんだ！」 怒鳴りつけるように叫んんだ海の言葉に 「殴って無い！平手打ちと蹴りを数発入れただけだ！」 先輩がそう叫んだ。 「はい、そこまで」 閉じていたドアが開き、小関さんが入って来た。 「坊主、協力ありがとうな。はい、須永正樹君。 強姦未遂と暴行容疑な。俺、弁護士って知ってるよね」 にっこり微笑み言うと 「俺とお話し、しましょうか」 そう言って先輩を連れて行ってしまった。 茫然としていると、海がゆっくりと僕の前にしゃがんで 「大丈夫ですか？」 って、手を差し出した。 僕が戸惑いながら手を出すと、僕をゆっくりと立たせてから、脱がされた衣類を拾って汚れを叩くと 「はい、どうぞ」 って衣類を差し出すと、にっこり微笑んで僕に背中を向けた。 海のジャケットを掛けられたままの姿だったけど、僕は海の背中に抱き付いた。 「和哉さん！」 驚いた声を上げる海に 「ありがとう。助けてくれて…ありがとう」 泣きながら呟いた。 久しぶりに嗅いだ海の香りに、涙が溢れて止まらなくなる。 すると海は僕の手に海の手を重ねて 「お礼なんていりませんよ。恋人を助けるのは、当たり前でしょう」 そう呟いた。 僕はその言葉に、一気に涙が込み上げて大泣きしてしまう。 あんな酷い別れ方したのに、まだ恋人だと言ってくれるんだ…。 海の優しさと、温かい体温が僕の凍り付いていた心を溶かしていくようだった。