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第23話

『ドンドン!ドンドン!』 その時、物凄い勢いでドアが叩かれた。 『ガチャガチャ』とドアノブが回され、再びドアが叩かれる。 「おい、開けろ!開けないなら、蹴破るぞ!」 聞き覚えのある声に、涙が溢れる。 そして『ガン!ガン!』と音が鳴った後、鈍い音が鳴ってドアが開いた。 上半身裸でぐったりした僕を見たらしく、海は慌ててドアを閉めた。 「きみ、誰?高校生?いけないな〜、学校の備品壊しちゃ」 僕に覆いかぶさっていた先輩はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。 「……よ。…お前……何してんだよ!」 海はそう叫んで先輩に殴り掛かる。 先輩は軽く避けると 「野蛮だな〜。これだから高校生は」 そう言って笑っている。 海はぐったりしている僕に駆け寄り、そっと着ていた制服の上着を掛けた。 そして僕の前に立ちはだかり 「この人に指一本、触れさせない!」 海の後ろ姿に涙が滲む。 「へぇ〜、カッコイイ」 先輩は気怠そうに拍手をしながらそう言うと 「何?スーパーマンにでもなったつもり?」 冷めた目で海を見つめている。 「そんなんじゃ無い!」 海がそう言って先輩を真っ直ぐ見つめていると 「本当…予定外が多過ぎて腹が立つ」 そう言って海の顔に蹴りを入れようとした。 息を呑むと、海は片手でその足を払うと、先輩に向かって蹴りを入れようとした。 「海!駄目だよ、手を出しちゃ!」 僕が叫ぶと、海は蹴り上げようとした足をその場で止めて、ゆっくりと足をおろして防御の姿勢を取っている。 「気に入らないな〜。何?格闘技とか習ってる系?ナイト気取ったその面、マジでムカつく」 先輩はそう言って、胸ポケットからナイフを取り出した。 「ねぇ、これで俺が自分の身体を傷付けて、お前がやった事にしたら…どうなるのかな?」 先輩は楽しそうにクスクスと笑う。 「和哉もその状態だろう?高校生が和哉を狙って強姦していたから、俺が守ろうとしたら切られたって…。きみ、高校生だよね?人生、終わっちゃうね」 そう言うと 「あぁ…本当に……。和哉、どうしてきみは僕の思う通りにならないんだろうね。悪い噂流しても、いつまでもこの大学に残ってるし。まぁ、あのクソ教師が殺されたのは、予想外のラッキーだったけど」 って呟いた。 「まさか…小関先生を殺させたのは…」 思わず呟いた僕に、先輩は驚いたように僕の顔を見て 「何?僕がやったって?」 そう言うと大爆笑し始めた。 そして急に真顔になって 「和哉、ドラマの見過ぎ…。俺は何もしてないよ。まぁ、死んでしまえば良いのに…とは思ってたけどね」 そう言って遠くに目線を飛ばすと 「だって、和哉から手を引けって言うんだ。 和哉には和哉の人生があるのに、俺がそれを邪魔したら駄目だって言うんだよ。邪魔なんて、してないのにね…」 と言って再び笑い出す。 「で、お前…和哉を抱いたの?」 先輩は海を見つめると、そう呟いた。 海がその言葉にびくりと身体を震わせると 「ふ〜ん、そう。じゃあ、俺と仲間じゃん」 先輩は冷めた視線でそう言うと 「あのクソ教師よりはまだマシか。和哉、良かっただろう?男に身体開くようにしつけたの、俺だから分かるよ。初めてのキスも、初めてのセックスも…全部俺がこいつに教えた」 先輩の言葉に海が拳を握り締める。 (あぁ…もう、本当に終わりだ…) 僕は、白くなる程握り締めている海の手をぼんやりと見つめていた。 「こいつ、可愛くおねだりするだろう?男を魅了する術を、徹底して教え込んだ。感謝して欲しいなぁ〜」 得意気に話す先輩に、海がゆっくり口を開いた。 「だから?」 そう吐き出した海に、先輩がムッとした顔で海を見た。 「だから何なんですか?俺が和哉さんに惚れたのは、一見、線が細いのに意思が強くて…。甘え下手で頑固で我儘で…。それなのに、時折寂しそうに笑う顔が堪らなく辛かった…」 後ろ姿だったけど、海が泣いているのがわかった。 「後悔しています。どうであれ、無理矢理関係を持ってしまった事を…」 海の言葉に僕は茫然としていた。 (後悔?…それって……) ショックを受けたその時 「俺は!俺は…別に和哉さんを抱けなくても良かったんです。この人が…和哉さんが本気で笑ってくれてれば、俺はそれだけで良かったんです。 でも、近付いたら欲が出て…全てが欲しくなってしまいました。本当に…俺は最低な人間です」 そう続けた。 「海……」 思わず呟いた僕の声に、海がビクっと身体を震わせる。 「なに美談にしようとしてるの?馬鹿じゃないの?結局、和哉とやったんだよね?お前も俺と同類じゃないか」 馬鹿にするように笑う先輩に、海は身体を強張らせて黙ってしまう。 「で、和哉。どうするの?この子を犯罪者にするか?俺のモノになるか」 先輩に言われて、僕の身体が震える。 先輩は他人も自分も傷付けるのは平気な人だ。 いくら僕が海を庇っても、周りを使って犯罪者に仕立て上げるのはお手の物だろう。 どうしたら良い? 海をどうしたら助けられるのかを、必死に考えていた。

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