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第28話

「和哉、荷物はそれだけか?」 荷造りしている僕に、小関さんが声を掛けて来た。 あれから1週間が経過した。 僕はまだ、小関さんと同居を続けている。 出て行こうとした僕に、まだ危ないからと小関さんと海に止められたのだ。  後から聞いた話では、海が大学に来たあの日。 僕の悪い噂が気になって、先生の事を調べたらしい。それで小関さんに辿り着き、小関さんに僕と海の関係を問い詰められた。 その時、小関さんから「お前のやってる事は、和哉を傷付けた先輩と一緒だ」と言われて、かなりショックを受けたみたいだ。 それからしばらくは荒れて、頭を冷やしてからもう一度、色々と調べようと思った矢先。 どうやらその噂の出所が、先輩らしいという情報を掴んだ。 しかもその情報をくれた女の子が、まさかの海に好意を持っていて、あの日、情報を渡す代わりに抱き締めて欲しいと言われたらしい。 で、その現場に運悪く僕が遭遇。 そっから先はご存知の通り、情けないことになったんだけど…。 僕が意識不明になっている間、お見舞いに駆け付けた海は小関さんに殴られたんだそうだ…。 でも海は小関さんに先輩の情報を伝えたくて、何度も何度も病院へ通って小関さんに話を聞いてくれと頭を下げた。そして根負けした小関さんも海の言葉を信じて、そして先輩が行動するであろうあの日、事件は起きた。 あの日1日、僕の行動を2人で見張ってくれていたらしい。 で、海と交代した時にあんな事になり、もう少し待てと引き留めた小関さんの手を振り切って乗り込んで来たという訳。 何も知らなかったとはいえ、海には申し訳無い事をしてしまったな…。 「おい。ぼんやりしてると、飛行機の時間に間に合わないぞ」 小関さんに言われて、僕は鞄を肩に下げて立ち上がる。 振り向いた部屋には、僕の荷物は何一つ残っていない。まるでそこに、僕がいなかったかのように…。 車で小関さんに空港まで送ってもらう。 「まぁ…頑張れよ」 見送りには行かないと言われ、空港の入り口でそう言われた。 「あの…今まで…」 そう言い掛けた僕の唇に、小関さんの指が触れた。 「お礼は無しな。俺は散々、お前を抱いたしな…。今度会う時は、お節介な元担任の兄貴だ。遠慮しないで連絡して来い」 そう言うと、頭をくしゃくしゃっと撫でた。 僕はこの人に、何も恩返しが出来ないままお別れなんだと思って胸が苦しくなる。 すると 「あ、それから。お前が俺に何も言わずに隠れて日本に帰って来ようものなら、あのくそ可愛く無い坊主の髪の毛が、丸坊主にされるだけだからな」 って言い出した。 「え!」 驚いて叫ぶと 「お前の考えてる事なんか、お見通しなんだよ」 そう言って小さく笑った。 「晃と約束したんだ。お前を絶対に守れる奴が現れるまで、俺がお前を守るって…」 と呟いた。 僕が泣きそうになると 「涙は、あのクソ可愛く無い坊主の為に取っといてやれ」 そう言って、ハンカチと何かを投げつけて来た。 渡されたハンカチと一緒にあったのは 『相馬へ』 と書かれた、懐かしい先生の文字が記された手紙だった。 「これ…」 驚いて小関さんを見ると 「それは飛行機の中で読め。あ!それから、あのクソ可愛く無い坊主に伝言な。早く俺を和哉のお守りから解放出来る男になれって伝えとけ」 そう言い終わると 「よし、俺の今日の仕事は終わった。」 と言って 「じゃあな、和哉」 そう言って笑顔を向けると車を走らせた。 「小関さん、ありがとう」 走り去る車に、僕はポツリと呟いた。

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