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第29話

走り去る車を見送り、僕はバッグを肩に掛けて空港の中に入る。 手続きを済ませて腕時計を見ると、搭乗まで1時間。スマホに着信を知らせる音が鳴り、海も空港に着いたみたいだ。 僕がすぐにアメリカへ行く事を決めた日。 大反対するだろうと思っていた海は、案外、あっさりと受け入れた。 「だって、遅かれ早かれアメリカに行くんですよね?俺は…和哉さんの進路の邪魔にだけはなりたく無いですから」 って、俯きながら呟いくと、無理して笑顔を浮かべて僕を見た。 正直、子犬が待てをしているようなその顔が可愛くて、頭を撫でたい感情を必死に抑えていたのは此処だけの話。 教授のメールでは、なるべく早く来て欲しいという内容だった。 行ったら、多分2〜3年は帰れない。 「それに俺も、来年、両親の海外赴任に着いて行くので、アメリカに行きますし」 海の言葉に、僕と小関さんの目が点になる。 「え?」 「あれ?聞いてませんか?だから渚、海外に行きたくなくて全寮制の男子校を受験するんですよ」 驚く僕に、海はそう言って微笑んだ。 「数ヶ月の我慢くらい…できます」 「でも…アメリカって言っても広いんだし…」 「俺、何処に行っても、必ず和哉さん見つけ出す自信あるんです」 「海…」 思わず見つめ合う僕達に、小関さんが咳払いをする。 「で、いつからだ?」 咳払いされて、慌てて視線を逸らした僕に小関さんが聞いて来た。 「教授のメールでは、1日でも早くって…」 「そうか…」 僕の言葉に重い空気が流れる。 「まぁ、そう決めたんなら、頑張るんだな」 と言って小関さんが微笑んだ。 「うん、ありがとう」 話が終わり、僕達は小関さんに送られてそれぞれの家に帰宅した。 海は自宅に着くと、小関さんに丁寧にお礼を言って車から降りた。 走り去るまで見送っていたらしく、車を走らせながらバックミラーを見ると 「…それにしても、クソ可愛くない坊主だな」 って、ぽつりと小関さんが呟く。 「え?」 驚いて小関さんを見ると 「ガキのくせに、落ち着いているというか…大人びてるって言うか…。どっかの誰かさんみたいに、危なっかしすぎるのもどうかと思うがな」 と、運転しながらぽつりと呟いた。 「ちょっと…。どっかの誰かさんって、僕のこと?」 「他に誰が居るんだよ」 運転しながら言われて、僕が頬を膨らませると小関さんが声を出して笑っていた。 思い返してみると、小関さんが声を出して笑う姿を見たのは久しぶりかもしれない。 …そう。先生が亡くなる前は、良く笑っていたのを思い出す。 僕は…、自分勝手にこの人を振り回していた事に気付かされる。 ふと、そんな自分が幸せになって良いのかと脳裏を過ぎる。 すると、小関さんが僕の頭をぐしゃぐしゃって撫てから 「俺に悪いとか、余計な事考えたら殴るからな」 って言って、僕の鼻を摘んだ。 自宅に着くと簡単な料理を作ってくれて、僕が食事を終えるのを確認すると、「さっさと寝ろ」と言われて片付けさえも手伝わせずに、僕を寝室へ押し込んだ。 僕はパジャマに着替え、ベッドに潜り込む。 疲れていたのか、僕はあっという間に泥のように眠りに着いた。

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