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第31話

自分達が泊まる部屋の階に到着すると、まず、部屋数の少なさに口を開けてぽかんとした。 渡されたカードキーの部屋番号に入ると。まず広いリビングが広がっている。 毛足の長い絨毯に、クリーム色で統一された洋風の高級そうな部屋。 呆然としている僕に、海が 「え?この部屋、どうしたの?」 って、めちゃくちゃ驚いた顔をしている。 僕は涙目になりながら海を見上げ 「僕…2万円しか払ってないけど…」 って呟いた。 「え?何?どういう事?」 パニクってる僕に、海が取り敢えずテレビに出てきそうな高級そうなソファに座らせた。 「僕…来月の海の誕生日に日本に居ないから、先にお祝いしようと思ってホテルを探してたんだ。 そしたら、小関さんが『知り合いにホテルのオーナーが居るから、部屋を安く借りてやる』って言われたんだ。予算を聞かれて、前払いで2万円渡したら『丁度、キャンセルが出た部屋があるから2万円で貸してくれるらしい』って言われて…。どうしよう!これ、どう考えても2万円の部屋じゃ無いよね!」 半泣きになっていると、部屋のチャイムが鳴る。 「?なんだ?」 海がドアを開けると 「失礼致します」 と言って、豪華な食事を載せたワゴンが続々と入ってきてテーブルセッティングを始めた。 僕と海はその様子を茫然と見守る事しか出来ない。 一通りセットを終えると 「このお部屋は、冷蔵庫の中の全てお飲み頂いても料金は掛かりませんので、ご安心してお使い下さい」 そう言われて、ホテルの人が出て行こうとした。 「あの!すみません!部屋、間違えていませんか?」 慌てて声を掛けると 「相馬和哉様と海様ですよね?お間違いないと思いますが」 と、不思議そうに言われる。 「え…?でも…」 戸惑う僕に 「小関弁護士のご親戚と伺っておりますが?」 そう言われて 「え!小関さんが代金を支払ってるの?」 って叫ぶと 「いえ。お代はお食事の代金2万円をいただいておりますが?」 そう言われてホッとする。 「あぁ、料理を食べたら帰るって事か…」 海と顔を見合わせて納得すると 「あの…本日はこちらにご宿泊の筈ですが?」 と言われて、益々頭が混乱する。 するとその人は「あぁ…」と言う顔をして 「小関様は、このお部屋を年間契約なさっております。ですので、お2人からは宿泊料金は頂戴いたしません」 そう言うと、にっこり微笑んで 「では、お食事が終わりましたら、フロントまでご連絡下さい」 と、深々とお辞儀をして去って行った。 「海…今、あの人なんて言った?」 茫然と呟くと 「部屋代、支払わなくて良いそうです」 ホテルの人達が消えたドアを見つめ、海と2人で立ち尽くす。 「いや、その前」 「え?あぁ…。この部屋、小関さんが年間契約しているって言ってましたね」 「……」 僕は海の顔を見上げて 「ねぇ、小関さんって何者?」 って、思わず聞いてしまった。 「俺が知る訳ないじゃないですか!大体、一緒に居た期間が長い分、和哉さんの方が知ってるんじゃないですか?」 溜息混じりに言われて 「長いって言っても…会うのはいつも小関さんの家か、ラブホだったからな〜」 思わず呟いて、海の顔色が変わったのを見て「しまった!」って心の中で呟いた。 「あの…海……?」 ムッとして黙っている海に近付き、恐る恐る顔を見上げると 「気にしていないと言ったら嘘になりますけど…、実際、あなたがキスマークつけてラブホからあの人と出て来てるのを見てるんですから…。今更、どうこう言いませんよ」 海はそう呟いて、ダイニングテーブルへ歩き出して椅子に腰掛けた。 「もう、その話は止めましょう。この食事、和哉さんが俺の為に用意してくれたんでしょう?」 そう言われて、慌てて僕もテーブルに着く。 美味しそうな料理が並んだテーブルに座り、僕達は下らない話をして楽しく過ごした。 食事を終えてフロントに連絡すると、片付けている間に食べられる量のケーキとコーヒーが出て来た。全て食べ終わるのと同じくらいに、ダイニングが綺麗に片付けられ、最後のデザートのお皿もワゴンに乗せられて部屋を出て行った。

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