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第43話

あの日から1週間が経過した。 俺は毎日、和哉さんの家に通っている。 部活を終えて和哉さんの家に行くと、大概、和哉さんは帰宅していなかった。 部屋の前で参考書広げて勉強していると、目の前に靴が見えて視線を上げる。 「お前、毎日毎日…」 呆れた顔をして和哉さんが立っていた。 部屋の鍵を開けて 「入れよ」 とぶっきらぼうに言われて中に入ると 「飯は?」 そう聞かれ、自宅に帰ればあるけど…って考えていると 「僕、食べてないから一緒に作るけど…食う?」 って聞かれて、思わず笑顔になってしまう。 「食べたいです」 そう答えると 「何を期待してるんだか知らないけど、大した物は作れないからな」 って言われて、俺も隣に並ぶ。 「何?」 疑問の視線を投げられて 「手伝いますよ」 と言うと、意外そうな顔で俺を見た。 「お前、料理出来んの?」 なんだか期待を込められた視線を向けられる。 「え?まぁ、簡単なものなら」 そう答えると 「なんだ〜。じゃあ、お前が作れ!実は僕、あんまり料理好きじゃないんだよな」 って言い出した。 「はぁ?一緒に作りましょうよ」 そう言うと 「じゃあ、僕は野菜を洗う係。お前、切って炒める係な」 「それって…、殆ど俺が料理してますよね?」 呆れた顔をする俺に、 「硬い事言うな。お前、ガキのくせに細かいところうるさいよな」 そう言いながら、和哉さんは冷蔵庫から袋詰めされた野菜と焼きそばの袋を取り出す。 「和哉さん…肉は?」 具材を見て呟くと 「はぁ?肉だと?ある訳ないだろう」 そう言って袋を開けている。 「肉無しの焼きそばですか?」 そう言って冷蔵庫を覗き込む。 独身男性の冷蔵庫って、こんな物なのだろうか? ペットボトルのお茶とお水の他に、袋詰めされた野菜が2袋に焼きそばの麺。そして冷凍庫にアイスが少しと、未開封のシーフードミックスが入っていた。 「あの…これ、どういう状況です?」 和哉さんの顔を見ると 「ん?外食ばっかりだから、たまには料理しろと渡された。肉は先に、肉だけ食った」 と、『何か問題でも?』って顔で俺を見る。 俺は溜息を吐いて、この人が学者馬鹿だと思い出す。野菜パックに水を入れて振りながら 「いくら探しても、肉なんか出てこないぞ」 って言われて、仕方ないってシーフードミックスを取り出す。 「お前、それどうやって食べるのか知ってるのか?」 驚いた顔をする和哉さんに 「知らないで買ったんですか?」 って聞くと 「だから、僕が買ったんじゃない。それは押し付けられたの!便利だからって。何が便利だよな! そのまま食ったら、味付けされてないし!騙された!」 と、文句を言っている。 この人、今までどうやって生活して来たんだろう? 呆れた顔をしていると 「なんだよ、その顔」 ってムッとしている。 「もう分かりました。後は俺がやるんで、和哉さん、他の事をしといてください」 野菜の入った袋のお尻の部分を切って、水抜きしている和哉さんが、俺の言葉に目を輝かせる。 「マジ?ラッキー」 って喜ぶと、濡れた手のままで抱き付いてきた。 「ちょ…、水で手が濡れてますよ!」 叫んだ俺に 「それがなんだよ!どうせ後で脱ぐんだから、関係ないだろうが!本当に、お前って細かいよな〜」 って呟く。 別に、和哉さんとセックスしたくて通っている訳では無いのに…。 この人は、自分にはそれしか価値が無いみたいに言うのが悲しくなる。 こんなに綺麗な人なのに… 好きな事に関しての知識や、勉強の教え方。 人に対しての配慮がきちんと出来る人なのに、それに全く気付いていない。 (まぁ…俺に対して、配慮というものは全くされてはいないが…) 渚を見ていればわかる。 あんなに勉強嫌いだったのに、今では和哉さんが来る日を楽しみにしている。 それに…俺が受けた授業も、きちんと高校生が興味を持ちそうな作り方をされていた。 きっと、教師が向いているだろうに…。 そう考えながら和哉さんを見ると、鼻歌混じりに教材を出してまとめている。 楽しそうな横顔。 普段、見られない和哉さんの素顔が見られる貴重な空間。 俺はこの空間が、たまらなく愛しかった。 ずっとこのまま、この時間が続けば良いのに…。 そう思いながら、俺は数少ない調味料を駆使しながら焼きそばと格闘していた。

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