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第44話

「和哉さん、出来ましたよ」 パソコンに向かい始めると、凄い集中力で何も耳に入らなくなるのに気付いたのは、ここに通うようになって直ぐだった。 こうなると何度声を掛けても絶対に気付かないので、背後に回って後ろから抱き締める。 「うわ!」 びっくりした声を上げて、和哉さんが俺に視線を向ける。 「ごめん、集中してた?」 俺が声を掛けると、和哉さんは少し混乱したような顔をしてから、俺の胸にもたれかかって甘えるように胸に頬をすり寄せる。 「お腹空いてたの…忘れてた。思い出したら、限界…」 そう呟いて胸に顔を埋める。 「出来ましたよ」 苦笑いして答えた俺に、和哉さんは嬉しそうに笑って座卓へと向かう。 今、腕の中に居たかと思えば、するりと簡単にすり抜けてしまう。 そして座卓の焼きそばを見て 「うわ!これ、お前が作ったの?すげぇ!」 って、目を輝かせている。 「いや、そんなに褒められる程でも…」 と答えると 「まぁ、そうだな。見た目が良くても、味が最悪って事もあるしな」 って言って、悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべる。 「お前、何してんだよ!さっさと座れよ!」 俺が座る目の前の席を叩き、ソワソワして待っている。 一応、傍若無人ではあるが、食事は誰かと食べる時は一緒に食べる…というのが、和哉さんの中にあるルールなんだろう。 苦笑いを浮かべて和哉さんの前に座ると、和哉さんは手を合わせて 「いただきます!」 と言うと、餡掛け海鮮焼きそばに箸を付けた。 「ウマ!」 そう叫ぶと、美味しそうに食べている。 美味しそうに食べている和哉さんの顔を見ながら、俺も自分の分の焼きそばに箸を付ける。 すると 「お前、容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能な上に料理上手なんて…。本当に嫌味だね〜」 そう言われて、思わず箸が止まる。 俺の様子に気付いたのか 「何?どうした?」 と言われて、必死に作り笑顔を浮かべて 「いえ…」 って答えた。 多分、本当に頭が良い人って、和哉さんみたいな人だんと思う。 俺は努力して、成績が良いだけ…。 沈んだ気持ちで焼きそばを見つめていると 「それにしても、あの冷凍された奴等がこんな味になるとはなぁ〜」 関心した顔で俺の焼きそばを見つめる和哉さんに 「もう少し食べます?」 って、焼きそばを差し出す。 すると 「いや、もう大丈夫。それより、又作ってくれな」 そう言って微笑んだ。 『又、作ってくれ』と言う言葉が、次の約束をもらえたみたいで嬉しくて、思わず笑みが溢れる。 すると和哉さんは何を勘違いしたのか 「お前、焼きそばを取られるのいやだったら、上げるとか言うなよ。もし俺が食ってたら、ただの嫌な奴じゃないか」 って言いながら、食器を片付け始める。 「お前、なんで料理出来るの?」 疑問に思うと知りたいと思う人らしく、突然、目を輝かせて目の前に戻って来た。 「基本的には、母が料理を作ってくれますけど…。父がお休みの日は、家族で家事を分担して母にお休みを上げるんです。だから、小さな頃から料理はしていましたね」 ぼんやりと思い出して話すと 「ご両親に感謝だな。お前が将来、きちんと自立出来る様に子供の頃からしつけてくれてたんだから。何も出来ないで女に家事を依存する男より、ちゃんとなんでも一通りこなせる方が生きる上での選択肢は広がる」 そう呟いた。 驚いて和哉さんの顔を見ると 「今、そう言う教育をしてくれる親は少ない。甘やかすだけが親じゃない。便利で安全な物ばかりを提供されていると、発想力や創造力というものが欠如されてしまうんだ。あと、危機管理能力もだな。だから、人に対して「そういう事をしたらどうなるのか?」が想像出来ない。痛みを知らないから、人を簡単に傷つけられる。際限なく、相手に己の欲求をぶつけて感謝出来ない。でも、お前はそうじゃないんだろうな。お前の恋人になった人は幸せだな」 綺麗な笑顔を浮かべてそう呟いた。 俺はその時、思わず叫びそうになった。 「じゃあ、あなたは幸せですか?」と。 「今、あなたの恋人は、どうであれ俺なんですよ!」って。 この人の中で、きっと「自分はただの性処理の相手」という認識しかないのだろう。 こんな気持ちで俺がそばに居るなんて、思いもしていないんだろうなと思った。 自分の食器をキッチンへと運び、洗い物をしようとすると 「ねぇ、お前、家の鍵とかどうしてる?」 って聞かれた。 「父からもらったキーケースに入れてますけど…」 って答えると、和哉さんが手を出してきた。 「なんです?」 思わず和哉さんの手を見て呟くと 「貸して。そのキーケース」 と言われた。 何か悪戯する気じゃないだろうな〜って思いながら、鞄からキーケースを取り出して手渡す。 「凄え…良いキーケース貰ってんな。しかも、名前入りかよ」 そう言ってキーケースを見ている和哉さんの様子を見ていると、視線を俺に戻して 「何してんだよ。さっさと洗い物しろよ!」 って、「しっしっ!」って追い払われる。 親父から今の高校編入祝いにプレゼントされた、大切なキーケース。 まぁ、子供じゃないんだから、変な悪戯はしないと思うけど…って考えながら、ちょっとハラハラしていた。 鼻歌混じりに、俺のキーケースに何かしている和哉さんを横目に、俺は洗い物を片付けて部屋に戻る。すると座卓にキーケースは戻されていて、和哉さんは俺の鞄の中から教科書を取り出して見ている。 「…なにしてるんですか」 呆れた顔で見下ろすと、和哉さんは 「お前、凄いな〜。こりゃ〜、頭良いの分かるわ」 と言いながら、俺の鞄に教科書を戻す。 「勝手に人の鞄を物色しないで下さい」 そう言って鞄を奪い返すと 「お前の鞄、つまんないな〜。参考書と教科書しか入ってないでやんの。エロ本とかあるかと思って期待したのに…」 って言いながらら、和哉さんはベッドに突っ伏す。 「ありませんよ!あんな物。第一、あったとしても、どうする気だったんですか?」 呆れた顔で和哉さんを見ると 「そりゃ〜、中味を拝見させて頂きますよ。俺さ、高校で友達居なかったから、どんな物か知らないんだよね。女性の裸には興味無いけど、健全な高校男子の興味がある物ってどんな物か見たかったんだよな〜」 って無邪気に笑ってる。 「エロ本見るのが、健全な高校男子なんですか?」 呆れる俺に 「お前な〜。性に興味が無かったら、種の保存は出来ないわけ。分かる?人は自分の遺伝子を残す為に、より優秀な遺伝子を残せそうな異性を求めるように出来てるんだよ」 得意気に言うと、ハッとした顔をして 「まぁ…だからお前と僕の関係は、種の保存に反している関係になってしまうんだけどな」 そう言って悲しそうに笑った。 俺はどう答えれば良いのか分からなくて、思わず俯く。

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