「わぁ〜、綺麗」 「でしょう？実物はもっと綺麗なんだよ」 隣の席の女子が、なにやら楽しそうに盛り上がっている。 「良いなぁ〜。水族館デートって、憧れるよね」 隣の席の子の友達が、うっとりと呟く。 （水族館デートか…。そう言えば、恋人とか言いながら、いつも和哉さんの部屋で飯食ってセックスして…って。爛れてんな〜） 思わずガン見してたらしく 「あ…ごめん。一条君、うるさかった？」 って言われてしまう。 「あ、嫌。…その…水族館って」 思わず指差して聞くと 「え？一条君、水族館好きなの？」 って聞かれる。 「あ…嫌…。その…、デートで水族館って、定番なの？」 聞きながら、顔が赤くなるのが分かる。 すると2人は顔を見合わせて 「え？一条君、彼女居るの？」 って声を合わせて聞かれてしまった。 「あ…いや、彼女じゃないけど…」 と、戸惑いながら否定すると、突然、背中にのしかかられて 「何？一条ちん、彼女居たの？」 って、後ろの席の大崎に叫ばれる。 「だから！」 真っ赤になって否定すると、大崎に 「じゃあ、何で水族館？」 って聞かれてしまう。 「好きな人を…誘おうと思って…」 そう呟いた。 「え？」 3人が不思議そうな顔で俺を見る。 「その…片想いだから、行ってもらえるかも分からないけど…」 と答えると 「嘘！一条君が片想い？」 「え？でもそれって、告ればOKとかじゃないの？」 「マジで！誰？何組？」 3人が言いたい放題言い始める。 「いや…、この学校の人じゃないんだ。年上の人なんだけど…、俺なんて全然相手にされてなくて…。1ヶ月間声掛けたりして頑張ったんだけど、名前さえ覚えてもらえなくて…」 思わず苦笑いして話すと 「一条君のアタックを無視…」 「信じられない…」 女子2人が顔を見合わせる。 すると 「な〜んだ、一条ちん。いっつも真面目な顔ばっかりしてるから、スカした野郎かと思ってたけど…。お仲間じゃん！」 と、大崎が俺の肩をバンバンと叩く。 「大崎、お前と一条君を一緒にするな！」 「なんだと！」 3人の言い争いを見て思わず笑ってしまうと 「一条君、イケメンの笑顔は破壊力満点」 って言うと、隣の女子がヨロヨロする演技をしてる。 「お前な、俺の笑顔も最高だぜ！」 「はいはい。悠斗の笑顔は、チャラ笑顔なんだよ！」 言い争う2人を心配していると、前の席に座っていた子が 「あ、気にしないで。いつもの事だから。本当に、いつまでもイチャイチャと…」 って呟いた。すると真っ赤な顔をして 「イチャイチャ言うな！」 って声を合わせて2人が叫ぶ。すると 「ほらね」 って、その子が呆れた顔で呟く。 「え？あの、付き合ってるのか？」 驚いて聞くと 「そう！お前の隣のかわい子ちゃんは、俺の彼女だから手を出さないでね〜」 と言われてしまった。 「そうなんだ…。両思いって、どんな感じなんだろうな…」 思わず出た本音の言葉に、3人が再び固まる。 「あのさ…、お前の片想いってマジなの？」 そう言われて 「だから、さっきから言ってるだろう？」 って苦笑いで答えると、突然、大崎が俺の手を握り締め 「マジか！お前のようなスーパーマンでも、片想いするんだな」 って言いながら、泣き真似をしている。 「これ、お前にやる！」 そう言うと、水族館のチケットを2枚握らされた。 「え？でもこれ…」 って戸惑うと 「それ、もらったんだ。俺の親父がここの関係者でさ、プレオープンに行ったんだ。そしたら、招待券2枚もらったんだよ」 と言われた。 「でも、他に行きたい人とか居るんじゃないのか？」 戸惑う俺に 「良いって、良いって！それより、頑張れよ」 そう言われて、俺は心からの笑顔で 「ありがとう」 って答えた。 これがきっかけで、編入生で浮いていた俺は、大崎達と仲良くなってクラスに溶け込んで行った。