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第48話

「お前、明日は来なくて良いから」 いつものように和哉さんの家に行き、身体を重ねた後に、脱ぎ捨てた制服を拾いながら着ていると、ポツリと和哉さんに言われた。 「え?」 驚いて和哉さんの顔を見る。 だって、明日は和哉さんの誕生日なのに…。 その言葉を飲み込むと 「学校の奴等と…飯…食うから」 俯いてそう呟いた。 和哉さんは嘘を吐く時、視線を落とす癖がある。 「そうですか…」 俺の脳裏にあの男が浮かぶ。 あいつに会うの? 俺に抱かれた翌日に、あの男に抱かれるの? 誕生日にあいつを選ぶのは、本命があいつだからなの? 口から吐き出しそうな言葉をグっと飲み込む。 胸が、灼熱の鉛を飲み込んだように熱く苦しい。 動きが止まった俺を、不安そうに和哉さんがベッドから見ている。 なんであなたがそんな顔をするの? 俺を捨てるのは…いつだってあなたなのに… 残酷な人だと思った。 いつだって俺の手を離すのは和哉さんなのに、こんな時、捨てられた子猫のような目で俺を見つめる。 俺は着ていたシャツを脱ぎ捨てて 「じゃあ…明日の分も今、抱いて良いですか?」 そう言って、ベッドの和哉さんを抱き寄せる。 「お前、門限!」 そう呟いた唇を強引に塞ぐ。 平日は跡を残さないように気を付けて抱いていたけど、俺はわざと跡を残すように激しく抱いた。 「海、ダメ…そんな強く吸わないでえ…」 俺の頭を必死に離そうとするけど、その手には力が入っていない。 誰にも渡さない! この人の身体は誰にも触れさせない! 白くきめの細かい和哉さんの肌に、俺の所有の証が刻まれて行く。 分かってた。 あなたが俺の名前を呼ぶのは、ベッドの中でだけ。いつだって、俺はあなたに名前さえ呼んでもらえない存在なんだって…。 打ち付ける昂りに、和哉さんの白くて細い首が仰反る。その首に噛み付くようにむしゃぶりつき、何度も何度も灼熱の楔を打ち付ける。 俺の背中に和哉さんの爪が食い込んで、鈍い痛みが走る。 好きなのに…愛しているのに…。 叩き付ける欲望は、あなたの心を閉ざすだけ。 重ねる肌が熱ければ熱い程、心は悲しみに凍り付く。 和哉さん、俺は間違えたのかな? 憎まれても良いなんて…嘘だ。 嫌われても良いなんて…なんで思ったんだろう。 こんなにもあなたが必要で、こんなにもあなたしか見えないのに…。 激しい動きの中で、息を切らせながら 「も……ダメ………っ!」 と、身体を小刻みに振るわせて、打ち付ける楔を離すまいと締め付けられる。 「和哉さん……俺だけ見て…俺だけを……!」 2、3回、叩き付けるように腰を打ち付けると、俺の頬にまで和哉さんの吐精した滴が飛んで来た。 全身を震わせ 「あっ……、あぁ……」 甘い吐息を吐きながら、俺にしがみついている愛しい人の額に口付ける。 ゆっくりと抱き締めてから、和哉さんから抜こうとすると、和哉さんの足が俺の腰を挟んで引き止める。 「和哉さん?」 「お前、余韻を残すっての知らないの?」 荒い呼吸をしたまま、そう言って和哉さんが俺にしがみつく。 「もう少し、中でお前を感じていたいんだよ」 そう言われて、全身の血が沸騰したようになる。 「…ぁっ!」 その瞬間、和哉さんは身体を震わせて喘ぐと 「お前…何、又…硬くしてん…だよ!」 怒ったように睨まれても、頬を上気させて涙目の状態だから、逆に煽っているようにしか見えない。 「煽った和哉さんが悪いんですよ」 再びゆっくりと抽送を始めると 「はぁ?煽ってな…い……」 そう反論しながら、達したばかりの敏感な身体なので、すぐに和哉さんは喘ぎ声を上げる。 何処まで求めたら、満たされるのだろうか? いつになったら、この不安から逃れられるのだろうか? 俺は答えの出ない問いを繰り返しながら、3度目の絶頂を和哉さんの中へと叩き付けた。

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