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第49話
結局、あの日は終電ギリギリに帰宅。
門限を破ってしまい、父さんがリビングで待っていた。
「海、公立に入ったからと言って、ハメを外すな」
と言われしまう。
「あの…。明日、友達の誕生日なんです。どうしてもお祝いしたいので、友達の家に泊まっても良いですか?」
火に油を注ぐのは分かっているが、父さんにお願いすると
「海。お前は今日、門限破ったの分かってるよな?」
怒った顔で言われて
「分かって…います。でも…どうしてもお祝いしたいんです。明日、友達は帰りが遅いらしくて…」
必死に食い下がると、親父は溜め息を吐いて
「もっとうまい嘘を吐け」
と言われてしまう。
「嘘じゃないです!本当に、明日誕生日で!」
そう叫ぶと、親父は苦笑いを浮かべて
「私が言ってる嘘はそっちじゃない。お前、恋人が出来たんじゃないのか?」
と呟いた。
「毎日、帰りが門限ギリギリ。勉強はその後しているようだが、毎週土曜日になると、部活終わりに直接向かって外泊。それで友達なのか?」
父さんの言葉に俯く。
『恋人』
俺はそう思っているけど、和哉さんの気持ちが分からない。
「お前が無理矢理脅して恋人にしたんじゃないか!僕の意思は関係無い」
そう言われたら、何も言えなくなってしまう。
黙っている俺に、父さんはどう受け取ったのかは分からないけど
「まぁ…良い。節度を持った交際をしなさい。…分かっていると思うが、きちんと避妊はしなさい。何かあっても、お前は責任が持てないんだから」
そう言われて、父さんに何も言い返せない自分が情けなかった。
結局、翌日は和哉さんの家に押し掛けて、サプライズをした。
和哉さんの帰宅は思ったより遅く、11時過ぎに帰宅して来た。
暗闇の中で帰宅を待っている間に、うつらうつらと眠っていたら鍵を開ける音に目を覚ましてクラッカーを鳴らしたら警察を呼ばれて怒られた。
和哉さんと2人でひたすら頭を下げて、呆れた顔をされたけど
「お前…、夜中にクラッカー鳴らして警察呼ばれるとか…」
そう言って爆笑していた。
2人でお腹抱えて笑って、ケーキをプレゼントすると、きっと美味しい料理を食べてお腹がいっぱいだろうに、ケーキを一個全部食べてくれた。
「お前、いつ帰るか分からないから、今日は来なくて良いって言ったのに…」
呆れた顔をされたけど、和哉さんは嬉しそうに笑ってくれた。
「今日、泊まれるんです!」
和哉さんを抱きしめてそう言うと、和哉さんは顔を引きつらせて
「今日は無理だからな」
って言って来た。
「分かってますよ。だから、今日は和哉さんを抱き締めて眠っても良いですか?」
そう訊くと、顔を赤らめて
「か…勝手にしろよ」
そう答えた。
時間はまだ23:30
俺は和哉さんを後ろから抱き締めて、少し柔らかい髪の毛にキスを落とすと
「お誕生日おめでとうございます、和哉さん」
そう呟いた。
「さっき言われた」
本を読んでいる和哉さんに冷たく言われ
「そうですけど…」
俺は唇を尖らせてそう言いながら、和哉さんの肩に顎を乗せる。
「でも…この世に生まれてくれて、俺と出会ってくれてありがとうって思うんです」
そう呟いた。
すると和哉さんは
「なんだよ、それ。恥ずかしい奴」
って言いながら、耳まで真っ赤にしていたっけ。
この日、俺は先にシャワーを浴びて、パソコンで資料をまとめている和哉さんを横目にベッドに入った。和哉さんのパソコンの画面を見つめる真剣な横顔と、キーボードを叩く規則的な音を聞きながらうとうとしていた。
しばらくしてシャワーの音が鳴り、もうすぐ寝るのかな?って思っていると部屋が暗くなった。
ベッドが軋む音が鳴って、もそもそと和哉さんがベッドに潜り込んで来る。
「寝たのか?」
そう聞かれて、夢現で和哉さんの身体を抱き寄せた。すると和哉さんは小さく微笑んで
「今日はありがとうな」
と囁くと、唇にキスを落とした。
うっすらと瞼を開けると、和哉さんが微笑みながら俺の顔を見つめている。
(これは夢?)
ぼんやりとした意識で見ていると、和哉さんはくすくすと楽しそうに笑って俺の額にキスを落とす。額、瞼、鼻先にキスをすると、頬にキスをした後に再び唇へとキスをする。
そして満足したのらしく、俺の胸に顔を埋めて深い溜め息を吐いた。
俺が強く抱き締めると、首元に顔を埋めて
「海の匂いがする…」
そう呟いて、俺の身体にしがみついた。
そしてしばらくすると、「すうすう」と規則正しい寝息を立て始める。
俺はその寝息を聞きながら、深い眠りに落ちて行った。
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