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第70話
先生の手紙を読んで、涙が止まらなかった。
「和哉さんの前から、消えようと思っていたんですね」
ぽつりと呟いた海の胸に、僕は顔を埋めた。
いつも遠くを見ていた瞳も、儚く笑う笑顔も、全ては命の期限を悟っていたからなんだと知った。
手紙はきっと、出すつもりが無かったんだろう。
僕にはなんとなくそれが分かった。
住所の書かれていない、僕の名前だけの白い封筒に書かれた文字がそれを物語っているようだった。手紙を封筒へと戻そうとして、もう一枚手紙が入っているのに気付いた。
その手紙を開けると
『相馬へ
卒業おめでとう
大学生活、頑張りなさい』
と書かれていた短い手紙だった。
きっと、これが僕へ渡す予定の手紙だったんだろう。再び溢れ出した涙を、海がそっと指で拭う。
「俺、責任重大ですね」
海はぽつりと呟くと
「でも、俺もこの人に負けないくらい、和哉さんが好きですから」
そう言って僕の身体を抱き締めた。
「海!此処、展望デッキ!」
慌てて叫んだ僕に、海はギュッと抱き締めて
「俺、まだガキだけど…絶対に和哉さんが、俺を選んで良かったって思える男になります!」
って叫んだ。
「海…」
「だから、もう少しだけ待っていて下さい」
僕の手を掴んで、海は僕の指先にキスを落とす。
「僕こそ、海にふさわしい人間になるように頑張るよ」
そう言って微笑んだ。
海は腕時計を見ると
「そろそろ行きましょうか」
って言って、僕の手を握って歩き出す。
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