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第69話〜先生の手紙〜
相馬へ
突然、姿を消してしまった僕を、きみは恨んでいるだろうか?
もし、この手紙をきみが手にしているとしたら、その時はきっと、僕はこの世にいない人間になっているんだろうな…。
僕は去年、頭の中に腫瘍が見つかり、医師からは長くて1年。早くて半年と宣告された。
手術の出来ない場所に腫瘍はあり、どうあがいても僕の寿命は長くても1年後に尽きてしまう。
そんな僕が自暴自棄にならなかったのは、きみがいてくれたからなんだ。
卒業までのきみとの日々を、大切に過ごしたいと思えたからなんだ。
初めてきみと出会った日の事を、今でもはっきりと覚えている。
桜の花びらが舞う4月。
新入生として入って来たきみは、花吹雪の中、じっと空を見上げていた。
その姿があまりにも美しくて、僕は一目で心を奪われた。
でも、教師という立場上、この想いは決して口にする事は無いと心に誓っていた。
2年で相馬の担任になり、きみの抱える苦しみや悲しみに触れて、僕は教師という立場を超えてきみを救いたいなんて思ってしまったんだ。
でも、残念な事に、僕には命の期限が付けられてしまった。
その事を知ったら、きっときみは僕の死を背負う人生を送ってしまう。
僕はね、きみは自由に大空を羽ばたいて欲しいと願っているんだ。
元々、きみの頭の良さを知ってはいた。
でも、僕と仲良くなるにつれ、きみは数学への興味を持ち始めた。
その頭脳の素晴らしさは、目を見張るものだった。きっときみの未来は、その素晴らしい頭脳と共に開ていくと信じています。
だから、何にも誰にも囚われずに、大空を羽ばたく鳥のように世界を飛び回る人になって欲しい。
その為に、僕はきみの前から消える事を選択したんだ。
でも結局、きみに恨まれたままが怖い僕は、こうして手紙を書いてしまっている。
きみは情けない奴だと笑うだろうか?
相馬。僕はきみと出会い、一緒に過ごした日々を思い出すだけで幸せな気持ちになれる。
僕はきみと出会えて、きみを愛せて幸せだったよ。
きみの、花が綻ぶように笑う顔が好きでした。
きみの、僕を呼ぶ声が愛しかった。
きみの成長を見守れないのが残念だけど、きっときみは光輝く未来を歩いていると信じています。
今、きみは笑っていますか?
愛する人と、共に歩いていますか?
きみは意地っ張りで、後で後悔するのに、すぐに思っても無い事を口にする癖があります。
そんなきみを、愛しいと…大切だと思ってくれる人と出会ってくれている事を祈っています。
最後に
相馬和哉君。
僕はきみを、心から愛していました。
だから、どうか誰よりも幸せでいてください。
きみの未来が、光り輝く素晴らしい世界が広がっていると心から信じています。
小関 晃
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