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第68話

海は人混みを物凄い速さで駆け抜けて、国際線の展望デッキへと走り込んだ。 上がる呼吸を落ち着かせながら、思わず顔を見合わせて爆笑した。 僕達は人気の少ないテーブルに座り 「こんな全速力で走ったの初めてだよ!」 飲み物を買って来た海にそう話す。 「すみません。あいつ等、遠慮無いから」 って苦笑いを浮かべ、海がペットボトルのお茶を差し出す。 僕はお茶を口にして、蓋を閉めながら思い出し笑いをする。 そんな僕を、小さく微笑んで海が見つめていた。 僕は鞄から手紙を出して 「これ…さっき小関さんからもらったんだ」 そう呟いた。 「小関さんには、飛行機の中で読めって言われたんだけど…。海、一緒に読んでくれる?」 ぽつりと呟くと、海は驚いた顔で僕を見て 「良いんですか?」 と答えた。 「うん。先生も、きっと許してくれると思う」 そう言って、僕は海の隣に移動して封筒に入った手紙を取り出した。 開いた手紙には、懐かしい先生の文字が並んでいて涙が浮かぶ。 『相馬…』 微笑む笑顔 僕の頭を優しく撫でる大きな手 風に揺れる白衣 いつも寝癖が着いていた髪の毛。 そして、その瞳はいつも遥か遠くを見ていた。 今、文字を見ただけで、先生との日々がつい昨日のように思い出せる。 先生は、命を懸けて僕を守ってくれた。 そんな先生は、今の僕を見てどう思うんだろう? 怒るかな? それとも…、いつものように微笑んでくれるのかな? 僕は左隣に座る海の顔を見上げ、左手で海のシャツを掴んだ。 怖かった。 いつ書かれた物なのか? どんな内容なのか? 海は僕の気持ちを察したらしく、手紙の左側を海の左手で掴み 「半分こして読みましょう。大丈夫です。和哉さんを命懸けで守ってくれた人なんですよね?」 そう言って、優しく微笑んだ。 右側を僕の右手で。左側を海の左手で持って、僕達は先生の手紙を読み始めた。

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