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第67話

「相馬先生!」 空港に入ると、渚君が走り寄って来た。 あんな辞め方をしたのに、今でも僕を「先生」と呼んでくれている。 「途中で辞めてごめんね」 僕がそう呟くと 「先生は悪くないよ!あの、クソ兄貴のせいなんだから、気にしなくて良いから!」 って言われた。 渚君の誤解をどう解こうかとも思ったが、僕が何を言っても無駄そうなので、少し離れた場所で僕達を見ている海と一条夫妻に視線を送る。 僕は渚君に手を引かれ、一条夫妻にご挨拶をした。すると一条さんの奥様が 「アメリカで会いましょう。お兄ちゃんの事、よろしくお願いしますね」 って言い出して、僕は慌てて海の顔を見る。 すると一条さんまで 「色々とご迷惑をお掛けしてすみません。まだ、至らない部分が多いかと思いますが、お願い致します」 と言って、海の頭をぐいっと手で下げさせている。 「え!あの…」 って真っ赤になると 「やだ!私達ったら。暫くのお別れのお邪魔よね。さ、渚。パパもお邪魔したら悪いから」 そう言って、抵抗する渚君を連れて離れて行った。唖然として見送った後、僕が海を見ると 「あれだけ大騒ぎしたから、俺達の事がバレたんだ。でも、今は応援してくれてる」 少し照れ臭そうに答えた。 「マ…マジで?」 呆然として呟くと、海はクスクス笑って 「だから、もう俺から逃げられませんよ」 って続けた。 「逃げないよ!」 そう答えて海を見上げ 「海は、本当に僕で良いの?」 と、思わず訊いてしまう。 海はそっと僕の頬に触れて 「不安になったら、何度でも言います。和哉さん、あなただけを愛しています」 そう言って微笑んだ。 僕が「海」って抱き着こうとした瞬間 「ごほん!」 と咳払いが聞こえた。 声の方に振り向くと、茶髪の高校生くらいの男の子と、セミロングの髪の毛をハーフアップしている可愛い女の子。その隣に、何故か僕をキラキラした瞳で見ている細身の頭の良さそうな女の子が立っていた。 海に頬を触れらた状態で、僕と海が固まる。 「ちょっと一条…。全部うまく行ったら、会わせてくれるって話だったわよね!」 細身の頭の良さそうな子が、海に目を座らせて詰め寄る。 「え?いや、だってお前ら…」 戸惑う海に、茶髪のチャラそうな子が海を突き飛ばし 「初めまして!俺、海の親友の大崎悠斗って言います。あ、悠斗って呼んでください」 そう言って僕の両手を掴んだ。 「はぁ……」 凄い勢いに圧倒されていると 「初めまして。私、このチャラ助の彼女で、関川と言います。で、こっちが私の親友で…」 と、セミロングの女の子の自己紹介の途中で、細身の頭の良さそうな女の子が、チャラそうな男の子から僕の手を奪い 「永澤夏美と言います。あの……乙女ゲームの牧野会長に似てるって言われませんか!」 と、突然言われた。 「乙女ゲーム?」 3人の圧に圧倒されていると、海が3人から僕を奪うように後ろから抱き寄せて 「お前ら!勝手に手を握るな!」 って叫んだ。 「なんだよ、海ちんのけちんぼ!」 「おたんこなす!」 って、カップルの2人に言われている。 僕がその様子を見てクスクス笑っていると、突然、永澤と名乗った頭の良さそうな子が海の胸ぐら掴んで 「い〜ち〜じょ〜う〜!お前、私の推しメンの牧野会長に似てるから、わざと会わせないようにしただろう!吐け!この裏切り者!」 って、身体を揺すられてる。 僕が心配になって 「あの…」 と声を掛けると、彼女は海を掴んでいた手を放して僕に満面の笑顔で振り向いた。 そして 「あの…お名前を教えていただいてもよろしいですか?」 と、凄いキラキラした目で言われて 「あ…僕は、相馬和哉と言います」 そう答えた。 「か……和哉様。お名前も素敵ですぅ〜!」 彼女はそう言って、再び僕の手を握り 「私、3次元に王子様って居ないと思ってました。私を和哉様のファン1号にして下さい」 真剣に迫られて、海の顔を見る。 海は呆れた顔をして僕に近付くと、コソっと耳元で 「カウントダウンしたら、逃げますよ」 って呟いた。 「え?」 驚いて海の顔を見上げると 「3、2、1、GO!」 と叫んで、僕の手を握って走り出した。

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