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第76話
「あのさ…もし僕が、明日海の誕生日だから帰って来たって言ったら、どうする?」
ちょっと興味本位で聞いてみると、海は驚いた顔をして
「覚えてたんですか?」
って呟いた。
「当たり前だろう!その…恋人の誕生日なんだから…」
恥ずかしくてモゴモゴ呟くと、海は壊れるんじゃないかって程に強く抱き締めた。
「い…痛いよ!この馬鹿力!」
僕が怒って叫ぶと、海は
「だって…、和哉さんが俺の誕生日を覚えてるなんて…奇跡ですよ」
そう言って、嬉しそうにクシャクシャな笑顔を浮かべる。
「まぁ…帰ってくるだけで、何もお土産とかプレゼントが用意出来なくてさ…」
僕はそう言うと、抱き締めている海の腕から離れて一度ベッドから降りると、鞄に突っ込んでいたブツを取りに鞄から取り出す。
恥ずかしいが、仕方ないと覚悟を決めて
「良いか!今から目を瞑れ!」
そう叫ぶ。
「はぁ?」
「良いから、黙って目を瞑って大人しくしてろ!」
不思議そうな顔をする海に目を瞑らせ、僕は必死になって作業をする。
通販で買ったアダルトグッズに、こんな物が売ってるって事は、他に買う奴がいるのかと思うと、世の中は頭が沸いてる人間が多いな…と悪態吐きながら説明書通りに仕上げる。
「和哉さん、まだ?もしかして、居なくなったりしないですよね?」
って、急に不安になったらしい。
僕の普段の行いが、いかに悪かったのかが分かる一言に焦りながら
「あと少しだから、もうちょっとだけ…」
最後の仕上げのリボン結びってやつが出来ない。オタオタしていると
「もう、目を開けますよ」
って言われてしまう。
「あ!待て!まだ用意が…」
そう叫んだのも虚しく…赤いリボンが絡まった状態の僕を、海が目を点にして見ていた。
「えっと…和哉さん?」
「なんだよ!僕は不器用なんだよ!」
真っ赤になって叫ぶ僕に
「もしかして…それ…」
って言いながら、海が真っ赤な顔をする。
「お…お前が欲しいって言ったから…」
絡まったままで呟くと、海はベッドから降りて絡まったリボンを綺麗に手直ししてくれた。
「お前、手先も器用って、どんだけハイスペックなんだよ!」
口を尖らせて言うと、海は僕を抱き締めてベッドへと連れて行った。
「本当はさ、カッコ良くこれで登場したかったんだけどさ…」
ジッと僕を黙って見つめる海から視線を逸らし、言い訳をゴニョゴニョと呟く。
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