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第1話
たった一度だけ抱いた肌を思う。
ヒヤリと冷たい肌。
でも触れてたなら次第に熱を持っていった。
そして燃えていく。
零れる吐息が水泡みたいに思えた。
そう、あれはまるで水の底で抱いてるみたいで。
抱きしめた水の中の火は、溺れている自分を焼き焦がしていった。
こっちもたくさん吸うて
こっちも舐めてぇや
乳首を自分で弄りながらあの人が言った。
その淫らさに唾をのむ
夢中になって咥えてしゃぶっていた性器を弄るのを止めた。
可愛がってや
ここだけでも・・・イケるねん
なぁ・・・
強請られて頭がクラクラした。
燃えてる火に焼かれてるのはあの人だ。
焼かれて火が消せないままなのはあの人だ。
ここは水の中なのに、あの人は燃えていて火が消せない。
前だけでは・・・足りへん
足りへんねん
あの人は泣いた。
ここだけでイかせて
そして、中だけでイかせて
いっぱい噛んで、喉の奥まで使うて犯して
淫らにあの人が求める。
息ができない
溺れるだけだ。
でも、言われがまま、その淡い乳首を舐め始める。
その感触に歓喜する。
舌で先端をつぶし、転がす。
身体がその度に反応するのが嬉しかった。
身体の下で蠢く身体と溶け合うように思えた。
噛んで・・・
噛んで・・
強請られ、歯を立てて甘く噛む。
ゆっくり余韻を残して離し、また舐めた。
唇で挟んで吸った。
唇がこの感触を求めていた。
舌がここを求めていた。
いいっ
これ、好きぃ
ああっ
叫び蠢く身体を押さえつけて、そこを吸うことがこんなに良いものだとは思わなかった。
夢中でその感触を味わった。
尖り、色付き、とけていく。
イく
イく
あの人は叫び、本当に乳首だけで射精した。
淫らすぎる身体に、オレは圧倒された。
その身体に溺れるしかなかった。
この水の底で。
思ったのだ。
この部屋は水の底なのだ。
息が出来るのはあの人だけ。
あの人は人魚だった。
その上級生の噂をきいたのはたまたまだった。
「ほら、三年のあの人な、男にさせてるらしいで」
友達が耳もとで囁いたのだ。
ベンチにいるあの人にそっと目をやりながら。
綺麗な男だな、そうは思った。
「させてる・・・って」
オレは何のことかわからなかった。
「セックス。ケツの穴に男のもんいれとるんやと」
いやらしく笑いながら、でも声を潜めて言った。
ここは底辺の男子校。
底辺すぎて、名前を云うと女の子に相手もされんレベルやので、やりたすぎる連中が自分達同士でくっついてしまうこともある、とは聞いていた。
なんせ、スポーツだけは有名な、脳まで筋肉みたいな連中の集まりなので、解決の仕方に躊躇はなくても仕方ない。
三秒止まって考えることもできないのだ。
そういうオレも、実はオレも人の手でしてもらうのに興味があって、姉ちゃんのマニキュア持ち出して、手が綺麗なヤツの指にマニキュアぬってしてもらったことがある。
手だけみてたらめちゃくちゃ興奮した。
たまらんかった。
ちなみにそいつは自分でする時にもマニキュア無しでないと出来ない身体になったそうだ。
「オレ、オレの手に惚れてしもた」
妙なフェチにはまってしまい、今はネイルの似合う綺麗な指の彼女をさがすことだけが夢になっている。
アホや。
オレもか。
まあ、オレのようにスポーツで有名になれば、制服見ただけで逃げられるようにはならない。
オレはそこそこ有名なアマチュアボクサーなのだ。
が、小さい頃からジムに通い、男社会しか知らなかったせいで、女の子とお話ができない。
出来ない。
出来ないのだ!!
緊張してしまう。
「オレらは制服見ただけで逃げられんのに、お前は声かけてもらえとんのになんや!!」
そう友人達にキレられるが仕方ない。
ヘタレなんは認める。
泣きそうになる。
だが、制服見ただけで逃げられるんは、お前らが積み重ねてきた素行の悪さのせいやろう、とも思う。
だが、とりあえず性欲解消に男同士でしとくってのはむなしい、マニキュア塗った指がいかに魅力的であっても(怖いので二回目は無かった)だ。
ましてや、ケツの穴ってのはない。
いや、女の子とそういうこともするんかもしれんのやね。
でも普通ちゃうやんね。
まず挿れるべきところにね。
まだそういうのは。
まずは普通に。
それより何より。
可愛い彼女が欲しいねん。
ちゃんとした恋が。
だから、自分は無いと思ってた。
男とするなんて。
確かにベンチに座る上級生は男にしちゃ綺麗だったし、やけに白い肌はなんか、なんか暗いとこで光るようないやらしさを感じてしまったし、空っぽの穴みたいな目に吸い込まれそうになった。
「なんかやれるよな、男でも。噂じゃ頼んだらさせてくれるらしいで。土下座でもしてくるか」
ヘンに興奮してる友人の頭をどついた。
「アホがしょうもない」
オレは言った。
上級生を見ないようにした。
見てることを気付かれないように。
そして友人を叩きながらそこを離れた。
必要以上に叩いて悲鳴をあげられた。
しょうもないしょもない。
あんなんマニキュアを塗った指みたいなもんや。
女の代わりでしかない。
ないはずや。
でも、あの穴みたいな目に勃起しそうになったのは本当だった。
綺麗な薄い唇に指を這わせて、キスしたいと思ったのは本当だった。
写真や動画や妄想の中じゃない生身の人間をその場で押し倒したいと思ったのは初めてだった。
誰が見ててもいいから、あのベンチであの上級生の服を脱がせて、その白い肌を撫で回し、舐めまわしたかった。
ついてるモノがあるんやぞ。
そう思っても。
思ったのに。
どんなんついてるんや。
弄ったらどうなるんや。
そっちに頭がいっていた。
おかしい。
おかしい。
オレはおかしい。
女の子のモンも生身で見たことないのに、男のモンを見たいやなんて。
まして、弄りたいなんて。
一目見てからおかしくなった。
それを一目惚れというのかはわからない。
ただ、やりたかった。
一度でいいから。
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