2 / 11

第2話

 一度気になったなら、どこにいても見つけてしまうようになった。  廊下。  通学路。  体育の授業中のグラウンド。  あの人はいつも気だるげで、どうでも良さそうな顔をしてぼんやりしていた。  あの人をオレみたいに見ている奴らは沢山いた。  誰にでもヤラセる、という噂のせいだろう。  いっておく。  バカばかりしかいない。  穴があればどこにでも何にもでも突っ込みたがる連中ばかりなのだ。  マジで郵便ポストに突っ込んだアホもおる位なのである。    だから。   あんな綺麗で、なんか人間ぽくないあの人なんか、男であっても関係ない奴らはおる。  でも、オレは男なのはアレやし、アレやねんけど。  でも、やりたかった。  なんか無性に。  あの人を見たら喉が渇いてるみたいな気分になった。  あの人の中に全身を浸して、すすり上げたい。  なんかめちゃくちゃ凶暴な気持ちで、すごく怖くなった。  なんやろ、これ  なんやろ。    見つけたなら目で追い続ける。  めんどくさそうな投げやりな、穴みたいな目。  どうでも良さそうに投げ出された、組み敷いたとしても、抵抗もしないで受け入れてしまいそうな長い腕。  あのだらりと座っている長い脚を肩に担ぎ上げて、穴に突っ込んだら、あの何も面白いことなんかないみたいな顔は変わるんやろか。    欲しい。  欲しいんや。  喰ってまいたい。  股間が疼いた。  見るだけで。    それが怖くてたまらなかった。  オレはどうなってしまったんやろ。  その日、昼休みのベンチに座って寝そべっているあの人の周りを、なんとかあやしくないようにウロウロしていた。  落とした何か探しているフリをしながら。  うまいキッカケがないか。  話かけるキッカケ。  いや、話したところで。  したいことは一つだけやのに。  本当に。  本当に。  頼んだらさせてくれるんか?    本当に。  本当に。  言うてみようか?  でも言うて・・・ちゃうかったら?  上級生相手に?    考えろ。  このアホ高校でこの人がこれだけ自由に振る舞ってる・・・こんだけ目立ってるのに・・・ってことはやぞ、多分な、この人、何かしらの力があるってことや。  この人が見かけによらず力が強いか、誰かの恋人とかセフレとかやぞ。  この学校は弱肉強食やねんからな。  しばかれるのを覚悟して聞かないといかんし、下手したらこの人が卒業するまで奴隷にされるぞ。  でも。    でも。  したかった。  その人は中庭のベンチを一人じめして寝ていた。  こんなん許されるんは、相当上位の上級生だけや。  人が珍しく周りにいない  今なら聞ける。  リンチされてもええパシりでも何でもしたる。  一度でええからさせて欲しい。  オレはそれに命をかけたい!!  覚悟をキメるべくあの人を見る。  あの人はだらしなく手足を投げ出し、寝ていた。  伸びっぱなしの、ウェーブした髪が顔の周りにまとまりついていた。  白い顔。  綺麗な唇が小さく口が開いていた。  キスしたかった。  舌をいれて、口ん中舐めまわして、舌を噛んで吸いたかった。  舌じゃないモノもあの口に・・・。  寝てるのをいいことにじっと見とった。  めっちゃ視姦しとった。  「エロいな、させてくれや」  声がした。  めっちゃ焦った。  自分が言ったのかとおもった。   心の声が口に出たのかと。  違った。  3年の先輩やった。  水泳部の。  茶髪なんはプールの塩素のせいで、ウチでは真面目な方の先輩だ。  真面目言うてもたかがしれてるけど。  しゃがみこんであの人をみているオレを追い越し、あの人のベンチに向かう。  あの人を上からのし掛かるようにして、ベンチに膝をついてあの人をのぞきこむ。  もう少しでキスする距離で。  その声にあの人は仕方なさそうに目をあけた。  「・・・お前か」  だるそうな声。  少しかすれていて透明な声、なんだか胸がざわついた。    「させて?最近してへんやん?」  笑って茶髪先輩が言った。  「別にかまへん。・・・でも後でな。まだ眠い」  そう言ってあの人は目を閉じた。  「ほんなら、放課後クラブハウスな」  茶髪先輩は軽くあの人の唇にキスして立ち上がった。  「今日は一人?もう大勢は嫌やで。しんどなる。3人までがええ」  あの人は目を閉じたまま言った。  「オレ一人やけど、しんどなるかもな。大勢と同じ位」  先輩はいやらしそう笑いを浮かべて言った。  オレは呆然としていた。  座りこんで何かを探していたふりしてたけど、もう立ち上がれなかった。  ガッチガッチになっとったから。  ホンマやった。  ホンマやった。  ホンマやったんや。  オレは激しく動揺していた。    クラブハウスのロッカールームにバスタオルを何枚か床に敷き、その上で2つの肉体が絡まり合っていた。  「ここ、好きやろ」  茶髪先輩があの人の片足を肩に担ぎ上げ、ゆっくりと腰を使う。    あの人が揺れる。    まるで水の底で揺れる水草のように。  ああ、ええなぁ  好き  それ、好き  言葉が水泡みたいに零れていく。     塗れた音が響いた。  あの人のからだが、波打つ。  あの人が空気を欲しがるように唇を開けて舌を伸ばす。     茶髪先輩の唇が開いてそれを受け入れる。  上でも下でも2つは繋がりあう。  水の底の軟体動物みたいに。  少しでも隙間なく絡み合い、深く繋がる。  互いの声を飲み込みあい、ぐちゃぐちゃと混ざり合う。  荒い息。  茶髪先輩の息  お前どうなってんねん  くそっ    絡みついてきよる  たまらんわ  呻き声  喘ぐ息。  あの人の息。  そこ  そこがええねん  アアッ・・・  なぁ、壊すつもりで突いてや   少しかすれた声はやはり心をざわつかせた。  繰り返し聞きたくなる声。  アホ  煽るなや  茶髪先輩は舌打ちし、半分立ち上がるようにしてあの人の腰を浮かし、その奥を激しく突き始めた。  壊し・・・て  ええ  ええ  ああっ  あの人の手足が水面を求める溺れた人みたいに何かをさがす。  ゆらゆらと揺れる。  やらしすぎるやろが  この淫乱  茶髪先輩が怒鳴った  クラブハウスの窓は平然と開け放してあった。   今日は明日からのテスト休みで部活はない。  だから人はいないとはいえ・・・。   シャワーとロッカーしかない部室にエアコンがないからとはいえ、  二人は隠す気なんて全くなかった。    窓は高い場所にあったが、ご丁寧に窓をのぞき込める台や灰皿まで置いてあったから、この行為が繰り返されてきて、ギャラリーがいたこともわかった。  二人は多分、オレがいるのに気付いても何とも思わないのだ。  クラブハウスに先生方が近寄ることはない。   煙草やら何やら、ワサワザ不祥事を見付けることは面倒くさいからだ。  スポーツで結果だけを出してくれれば良いのだ。  実質無法地帯なのは知っていたけれど・・・。  オレの部でも大概やし・・・、  でも、コレは凄すぎた。    ああっ  ああっ  イくっ  あの人が爪先立ちになって身体を反らせる。  髪が水の中みたいにたゆたっているみたいに見えた。  プールの底に揺れる光みたいに。  勃起した性器から飛び散るのが見えた。  ずっと見たかった性器は、それを咥えてやりたいと思ってしまう色や形をしていた。  男のモンにそんなことを思うなんて・・・。  ちなみにオレも窓の外にあるタンスみたいな台(登るためのハシゴまである)の上で、窓に張り付いてズボンを下ろして自分のモノを擦っていた。  オレは。  あの人をつけてきたのだ。  オレはぜんぶ見ていた。  あの人の服を茶髪先輩が脱がすのも。  あの人がコンドームを口で茶髪先輩につけてやるのも。  茶髪先輩があの人の乳首だけであの人をイかすのも、ひたすら見ていた。  乳首好きやなぁお前  先輩はそこを噛みながら言った。  オレも噛みたくてたまらなかった。  好きやで  噛まれるのも、吸われるのも  舐められるのも  イ・・・イッ  はあっ  吸うてぇ  噛んでぇ    あの人が茶髪先輩の髪に指を立てるのも。   脚をその身体に絡ませるのも、  自分から胸をこすりつけるのも、腰をうごめかせ、先輩の身体に自分のモノを擦るのも。   まばたきもしないで見ていた。  何度も息さえわすれて  何をしていてもあの人はだるそうで、でも、快楽に溺れていた。  溺れていく。  深く沈んでいく。  オレも沈んでいく。  暗い水の底に。  息ができなくなる  苦しいせいか、セックスしているあの人を見ていたら、海の底を何故かおもっていた。  音がしてもどこか遠い、身体を包む異質の空間。  現実ではないみたいで。  茶髪先輩がその穴を舐めまわしているの見てさえ、自分もそうしたいとさえ思っているのだから。  これは現実ではない、そう思えた。  茶髪先輩に穴を舐めまわされながら、あの人は笑っていた。  ふふっ  気持ちええな  ああっ  ええっ  こないだみたいに二本挿れたい  あの人は言う  「・・・今日はオレ一人や。ちゃんと満足させたるから文句いいな」  先輩はどこか苦く笑った。  「自分で探すな。約束は守ってるな?」  先輩はそこをなめながらあの人に言う。    「うん・・・一昨日は家にな三人来てくれたで・・・いっぱいした・・・さすがに昨日はせんかった・・・ちゃんと学校来なあかんからな」   あの人は笑う。     「あいつらにコンドームは使わせろ。ええな?」   先輩がキツイ口調で言った。  「・・・約束やからな」  あの人がどうでも良さそうに言った。  「そうや・・・約束守れば・・・お前をみんなでたっぷり可愛がったる」  先輩は太ももに歯をたてた。  ああっ  あの人は小さく叫んで、自分で自分のものを扱き始めた。  「アホ、触るな・・・我慢せぇ」   先輩に怒られるが止めない。  舐められながらこうしたいねん  なあ、舐めて  もっとも舐めて  奥まで舐めて  強請られ、先輩は呻いた。    自分で自分を擦るあの人はいやらし過ぎるのだあまりにも。     先輩はまた舐め始め、あの人は自分のモノを弄りつづけた。    ああっ  あの人が達したのは、もう我慢出来なくなって、先輩がそこに突き立てたのと同時だった。  窓の外でオレもイっていた。  たまらない  止まらない、  こんないやらしいもの見たことがなかった  そこから二人は何度も達しながら繋がり始めた。  深い暗い水の底みたいなこの部屋で。  その二人を見ながらオレも何度もイっていた。    自分の手で擦りながら。  何度も声を上げそうになるのを必死でこらえながら。                        

ともだちにシェアしよう!