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第5話 貴臣は見た

「なんか貴臣とこうやってくっつくの久しぶり」 「そうですね。最近一緒に風呂に入ってませんからね」  貴臣は背後から手を回してくる。  体を引き寄せられたので、貴臣の肩口に頭を乗せて体重を預けた。  湯船の中でする体勢と一緒だ。男2人が狭い湯船で楽になれる体勢はどれかと色々と試した結果、これが1番落ち着けていいという結論に至ったのだ。  貴臣とは仲が良いとはいえ、時々距離感が近過ぎることは自覚している。  初めは肌が触れ合うことに多少疑問を持ったが、『これくらい普通ですよ』と貴臣は言うので、家族だからそんなものかと思うようになった。  それにしても貴臣は、俺と違って筋肉質で頼り甲斐のある体躯だ。その薄いシャツに隠れているが、運動部に所属している訳でもないのにシックスパックがちゃんとあるのは知っている。 「兄さん、いい香りがしますね」 「お前だって同じ香りがするよ。ていうかくすぐったい」 「ちょっと変な気分になりました?」 「……まぁ、さっきよりかは」  しんとした部屋に響くのは、衣擦れの音と二つの呼吸音、そして自分の心臓の音。 「兄さんはいつも、どんな風に自慰しているんですか?」 「えっ、どんな風にって」 「さっき自分で言っていた、そういう動画を見ながらしてるんですよね」  改めて問われると恥ずかしいが頷く。  動画を見ながらがほとんどだけど、疲れていて何日も抜いてない時なんかは何も考えずに機械的に手を動して処理をする場合もある……って、ちょっと待て。今、してるんですよねって言ったか?  ジッと見つめると、貴臣は察したみたいでニッと笑った。 「あぁ、実は俺、見た事があるんです。兄さんがオナってるところ」 「はっ⁈」 「夜中、水を飲みに行こうと兄さんの部屋の前を通った時、苦しそうなくぐもった声が聞こえてきたのでこっそり覗いたんです」 「なっ、何勝手に覗いてんだよ」 「だって腹痛か何かを起こしているのかと本気で思ったんですよ。心配になってドアを開けたんですが、兄さんは動画を見ながら布団に丸まって自分のコレを弄っていました」 「ふ……ざっ……」  けんな……と掠れた声を出しつつ、ますます体を縮こませて耳を塞ぐ。  動画を見る時は大抵イヤホンをして、いつもドアに背を向けて横向きに寝ているのだ。 「兄さんの体が何回かビクビクと跳ね上がったのを確認してから、そっとドアを閉じました」 「フィニッシュまで見守ってんじゃねーよ! 恥ずかしいだろ!」 「じゃあ途中で声をかければ良かったんですか?」 「そうじゃなくて!」  貴臣はますます肩を上下させて笑う。 「なので、緊張しなくてもいいっていう話ですよ。見たことがある相手の前だったら、今更気負わなくてもいいと思いません?」 「ま、まぁ、それもそうか」 「大好きな先輩の前で失敗したくはないでしょう? 俺の前でだったら変な顔したり、恥ずかしい声出しても大丈夫ですよ。馬鹿にしたりしませんし、何よりこれは特訓なんですから」  そう諭され、もう一度壁に貼ってある性癖の数々を目で追った。  そうだ、これからしようとしていることは大好きな先輩の為。今日からこいつと、秘密の特訓を開始するのだ。 「兄さんが触りたいと思うタイミングで、始めてくださいね」  色っぽくて艶のある貴臣の声に少々肌が粟立った。しばらく逡巡したのち、貴臣に寄りかかりながら尻を上げてハーフパンツを膝まで下ろした。

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