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第8話 ③*
貴臣は直接俺に触れようとはしない。
それがなんだかもどかしかった。
もし貴臣が触ってくれたら、どんな気分になるんだろう。
いや、違う。これは先輩の為の特訓だった。
俺はうんといやらしいオナニーを先輩の前でもできるように、信頼できる弟の前でこうしてアドバイスをもらいながら恥ずかしい事をしているんだ。
そろそろ限界が近づいてきていた。
少しでも手の動きを早めたら、秒で射精する自信がある。
「たっ……かおみっ……」
「ん? そろそろイク?」
「う……ん……。おれっ、ちゃんといやらしい……っ、オナニー…できてるっ……?」
「できてますよ。兄さんは最高に可愛いです」
貴臣が笑いかけてくれて安堵する。
初めて出会った頃は、話しかけてもあんまり笑ってくれなかったんだっけ。
それなのに、今では俺とこんな秘密の特訓をしてくれているだなんて。
カウパーを指で掬って、それが出てきた箇所に塗り付けながらきつく握り夢中で腰を振った。
今は誰もいないし、声出していいですよ。
耳元でそう囁かれて、俺はまた貴臣を見つめ返した。
貴臣の瞳に、眉根を寄せてのぼせた男の顔が映っている。
俺は遠慮なしに喘ぎながら、目に涙を溜めた。腰が震えて、足の爪先まで全身に力が篭る。
粘度のある水同士がぶつかるような音が部屋いっぱいに響いた数秒後、弾けるように欲望を解き放った。
「あっ、やあ……っ、たかぉ……っ……! ……っ」
自分の腹や胸の上に、パタパタと白濁が散っていく。
目をギュッと閉じ、ひくんひくんっと体を痙攣させながらすべてを吐き出すと、頭がぼーっとして現実か夢か分からなくなった。
「……はっ、はぁっ……ふぁ……はぁ……ッ」
こんなにもオナニーで感じるだなんて。
声を思い切り出したからか、それとも貴臣に見られていたからか。
あまりにも気持ちよく吐精できたことに一種のカルチャーショックを覚え、後処理もしないまま、しばらくぐったりとした。
「兄さん」
目を開けると、貴臣の笑った顔が逆さまに見えた。
貴臣は俺の髪を梳いたり、額にかいた汗を拭ってくれている。
「お疲れ様でした。とても気持ち良さそうでしたね」
「うん……なんかすっごく……気持ちよかった……」
「問題ないですね。きっと先輩の前でも上手にできますよ。でも一つ。最後、俺の名前を呼んでましたね?」
「あ……ごめん、呼びたくなっちゃって」
「先輩の前でうっかり言わないように気をつけてくださいね。あとはここも弄る練習。それさえすれば、もう完璧ですよ」
熟れたいちごみたいに紅くなっている二つの突起を指差され、咄嗟に顔を伏せる。
何枚かティッシュを引き抜いてこちらに手渡してくれたので、後処理をした。
こうしてる瞬間の方がさっきよりも恥ずかしい。
冷静になってから、やっぱりおかしなことをしちゃったんじゃないかと思ったが、貴臣の態度は始める前と全く変わらなかったので不安が霧散していった。
「次に試すの、なにがいいかちゃんと考えておいてくださいね」
貴臣にそう言われ、俺はまた唇を噛んで頷いた。
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