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第13話 貴臣の見張り

   まさかそんな、嘘だろ。  声にならない声を上げた俺は早速トイレに行ってしまおうとするが、貴臣の大きな体に阻まれた。   「今日、風呂は一緒に入りましょうね。そこでこっそり用を足されてしまうかもしれないし」  貴臣は昨日と同じように、不敵な笑みを浮かべている。  正気か? こいつ、俺に協力するとか言っといて実は楽しんでないか?  だって昨日の今日でいきなり、これをするなんて普通だったらありえない。  ──貴臣の前で、お漏らししろっていうのか。  先輩の性癖リストの上の方に書いてあったのは『服を着たままおしっこを漏らしているのを見るのが好き』だった。  そんな性癖理解出来ない。けど上の方に書いてあったということは、先輩の中では結構上位な性癖だということ。これは克服しておいた方がいい案件なのは分かっているけど。  サッカーで培った瞬発力で隙をついて逃げようとしたが、狭い廊下ではそれは不可能だった。  貴臣は壁に手をついて通せんぼをする。 「大丈夫。心配しなくても、まさか制服で漏らせだなんて言いませんよ。ちゃんと濡れてもいいような服に着替えてもらいますから安心してください」 「そんなことを心配してんじゃねぇよ! お前本気なの? なんでいきなりそんな……」 「さっき水の戯れを弾いていたら、兄さんが漏らすシーンがはっきりと思い浮かんだので」 「み、水の? 知らないしそんな曲! ていうか声を落とせよ! 聞かれるだろ」 「兄さんの方がよっぽど大きい声を出してると思いますけど。いつかはすることになるんですから、覚悟を決めてくださいね」  だからそんなの簡単に頷けない。  貴臣は俺の肩を持って翻し、階段を上らせた。  着替えてくださいねと言われたので大人しくブレザーを脱ぐのだが、なぜか貴臣はドアを塞ぐようにして寄りかかり、腕組みをしながら俺のことを見ている。 「なんでそこにいるんだよ」 「逃げられないように、今日はずっと兄さんを見張っています」  こいつガチだ。何を反論しても、大丈夫ですよと言われるのがオチなのでもう黙った。  昨日はオナニーを見せたんだ、着替えくらい見られたところでどうってことないけど、舐めまわすような視線をもらうと落ち着かない気持ちになってくる。  悩んだ末に、使い古している中学の時の長ジャージを履くことにした。  でもこれは決して了承したという意味ではない。一応体裁をとっておかないと貴臣はうるさいだろうから。  見張るといっても限度があるだろう。隙を見てトイレへ駆け込めばいいんだ。  それにしても、急にこんなことになるんだったら学校で用を足してくれば良かった。普段だったら1度夕食前にトイレに行くのだけど。  だが元々、尿意をもよおす感覚は長めだ。きっと俺の膀胱は夜中まで余裕で持つだろう。貴臣が寝入ったところを見計らってトイレで用をたせばいい。   「俺の目を盗んでこっそりトイレにいこうって思ってるんでしょう」  今まさに思っていたことを指摘されたので、声が漏れていたのかと焦ってしまう。  いや、漏れるって言葉はもう禁句にしよう。  別にー、と澄ました顔で階段を下りると、貴臣も背中にくっつく勢いで下りてくる。本当に目を離さないつもりらしい。  今のところ全く尿意はもよおしていないし、まだ笑っていられる余裕はあった。  そう、なんとかなるだろうと楽観的に考えられていられるうちはまだ良かった……。

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