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第14話 もよおす怜

 夕飯時に出されたお茶はなるべく飲みたくはなかったが、脂っこい唐揚げを食べているとどうしても欲しくなってしまった。  仕方なしに少し口にしたが、意識してコップの半分くらいは残した。  母は今日、早めに就寝するようだ。  義父も最近帰りは午前様だ。母が寝室に入ったのを見計らって、貴臣とバスルームへ向かった。  洗濯かごに衣類を放り込み、貴臣に続いて中に足を踏み入れる。  近頃朝夜が冷え込むようになってきた。裸で浴室に入った瞬間、冷気が襲ってきてブルっと身震いしてしまった。    まずいかもしれない。  帰宅してすぐに烏龍茶を一気飲みしたのがいけなかったのだろうか。  夜中まで余裕だと思っていたのに、予想に反して少しだけ尿意をもよおしている。まだ大丈夫だが、いつもならトイレに向かっているくらいの感覚だ。    貴臣に背中を流してもらい、一緒に湯船に浸かる。  きのうと同じ体勢になり、貴臣に背中側から抱きしめられた。  肩に頭を置いたのだが、浮力で体が浮き、足の間が水面から出そうになったので慌てて沈めた。そこはなるべく直視したくない。見るとどうしてもトイレのことで頭がいっぱいになってしまう。  本当に、貴臣の前で漏らすことになったらどうしよう。  無言でいたら、貴臣に笑われた。 「兄さん、やけに静かですね」 「えっ? いやぁ、気持ちいいなぁと思って」 「へぇ。てっきり、トイレを我慢しているのかと思いました」 「べ、別に」  貴臣は意地悪く、俺の臍あたりを指先でくすぐってくる。  反動で後孔をキュッと締めてしまって焦った。腹の中に余計な動きを与えてしまった。 「なんだよ」 「兄さんってくすぐりに弱いですよね」 「分かってんならやめろよっ」 「漏れちゃいそうだから?」 「っ……」  恥ずかしくて俯くと、貴臣はくすくす笑って手を動かすのをやめてくれた。 「兄さんは本当に可愛いですね。きっと先輩もそんな兄さんだから告白を受け入れてくれたんですよ。性癖はまだ理解出来ない部分はあるかもしれませんが、一緒に頑張りましょう?」  そうだ、先輩。どれもこれも、すべて大好きな先輩のためだ。  貴臣は俺をいじめているわけではない。協力してくれているのだ。  そう考えて、気持ちを切り替えようと試みた。  だがまだ少し抵抗がある。だってこんな歳でお漏らしだなんて。  風呂を出たあと、貴臣の部屋に先に行っているように言われた。  もちろんトイレへと続く廊下は貴臣によって通せんぼされたので、しかたなく部屋に直行だ。トイレは1階にしかないのが悔やまれる。  貴臣の部屋に入った途端、いつも床に敷いてあるラグがなくなって、フローリングが剥き出しになっているのに気が付いた。  用意周到だな。  苦笑して、とりあえずベッドに腰掛ける。  尻がスプリングベッドに沈むと、太腿の間がきつくなって玉が潰れてむずむずした。  まだ大丈夫。大丈夫だけど──  あんまり無駄な動きはしないよう、膝の上で拳を作ってじっと貴臣を待った。  

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