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第15話 貴臣と紅茶

   しばらくしてから貴臣が部屋に来た。  その手にあったものを目にしてゲンナリする。 「一緒にいかがですか?」  言いながら貴臣は、トレイに乗ったティーポットセットとマドレーヌをテーブルの上に置いた。  ティーポットを傾け、カップに紅茶が注がれていくのを見るとはっ倒してやりたくなる。   「狙ってるだろ」 「はい? 俺はただ、兄さんと一緒にお茶したいなと思っただけです」 「時間を考えろよ! ていうかこの家にそんな洒落てる食器があっただなんて今まで気付かなかったわ!」  いつも冷蔵庫に入っている烏龍茶で事足りている俺は紅茶など飲まない。これは確実に、俺に困らせようとしている。 「美味しいですよ、このルイボスティー。紅茶専門店で買っておいたんです」 「あぁ、そう。じゃあ今度頂くわ」 「えぇ、せっかく淹れたんだから飲みましょうよ、一緒に」  はい、とソーサーごとこちらに差し出されたが、頑として受け取らなかった。  だってそんなの飲んだらやばいだろ。紅茶って利尿作用があるって聞いたことがあるし。  カップの中でたゆたう液体をじっと見てしまい、う、と言葉を飲み込んで視線を逸らした。  意識しないように心がければかけるほど、そのことで頭がいっぱいになってくる。  貴臣は諦めてくれたのか、カップを引っ込めてテーブルの上に置き、椅子に座って自分一人で飲み始めた。 「時に兄さん。そこでは漏らさないでくださいね。するのならフローリングの床で」 「なっ……」  やっぱりこいつは、俺にさせる気満々だ。  どうにか逃げ道はないのか。こうしている間にも膀胱に溜まってきている。  一旦ベッドから降り、フローリングの床に体育座りをして熱く火照る顔を自覚しながら貴臣を見上げた。 「時に貴臣。ひとつ聞くんだけどさ」 「なんでしょう」 「お……お漏らしって、自分から……するの?」 「自分からというと? ……あぁ、自分の意思で、という意味ですか」  尿道の筋肉を緩めて自らするのと、我慢が出来ずに意図せず漏らしてしまうのではやり方が違う。どちらにしても恥ずかしいことには変わりはないし、どっちがよりいいのかは検討も付かないのだが。 「兄さんはどちらがいいと思いますか」 「えっ、どっちもヤダ」 「ヤダという回答はなしですよ。二つに一つです」 「だって! 恥ずかしいっ!!」  たまらず膝の間に顔を埋めてうずくまる。  今出せば、そこまで大量には出ないだろう。かと言って自ら漏らすのは抵抗がある。だったら我慢して、自分の意志ではない漏らし方をしなきゃいけない。だが我慢をすればするほど量も溜まっていくし、漏らす瞬間まで長い長い戦いが待っている。  どっちにしろ地獄である。  なんで先輩はこんなのを見るのが性癖なんだ。オナニー披露にお漏らし披露。先輩は自分がすることより、他人がしているのを見るのが性癖なようだ。他にもクリアしなくちゃならないのがたくさんある。  やめようか、と一瞬迷ったが、昨日せっかく貴臣の前で披露したのに無駄にしたくない。  ここで躓いているようでは、先輩の恋人にはなれない。  口をへの字の曲げながら、顔を上げた。 「もうちょっと、考える……」 「いいですよ、ゆっくりで。でもどっちにしろ、紅茶は飲んでください。きっと気に入ると思いますから」  貴臣はそう言って、カップの中身を口に運んで椅子から下り、俺と同じ目線になって近づいてきた。  まさか、と体を背後に引いたが間に合わず、あっという間に後頭部に手を回されて体を押さえつけられた。  貴臣はそのまま俺と唇を合わせ、液体を俺の口腔に流し込んだ。

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