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第21話 個室の2人

   自宅の最寄駅で降り、貴臣は改札を抜けていつもと反対口の階段を下りていった。  そっちにはファストフード店やテイクアウト専門の揚げ物やがあるので、何か購入するつもりなのかと思っていたら、立ち止まった先はトイレだった。  なんだ、行きたかったんなら言えばいいのに。   「荷物持っててやるよ」  サメくんと、いかがわしいグッズが入っているビニール袋を貴臣からもらうと、なぜかふふっと笑われた。  なぜ笑われたのか……答えは1分後に分かった。    俺は今、トイレの個室に入っている。  なぜか貴臣と一緒にだ。  あれよあれよと言う間に狭い空間に押し込まれ、嫌な予感しかしない。  貴臣はピンク色の箱を取り出し蓋を開けた。  出てきたのはローターだ。  卵形に丸みを帯びた物に紐が付いたローターはスタイリッシュなデザインで、言われなければ卑猥な道具とは決して分からない。  貴臣が付属の乾電池をその器具に入れ、リモコンのボタンを押すと微弱に振動している音がこっちにも伝わってきた。 「わぁすごい! これ、10m先でも反応するらしいですよ!」 「声を落とせってんだよっ」  どうやらそのローターは遠隔操作が可能で、振動パターンも10こあり、専用のアプリも入れればスマホでも操作可能らしい。すごいな、最近のアダルトグッズ。 「それでは兄さん、お尻を出して」 「絶対いや」 「えぇ? この間、先輩に大丈夫そうですって自分で言ってきたんでしょう?」    貴臣はいつも唐突なんだ。  心構えする暇も猶予も与えてくれない。まさか買い物してすぐに使うだなんて思わないだろ。  またの機会にしようよ〜…という俺の反論は聞き入れてもらえなかった。 「とりあえず、ここから家までの距離ですから。すぐですよ」 「……10分くらい?」 「まぁ、普段通りに歩いたらそのくらいですけど」  俺の感度次第ってことか。  どうしよう。まだ迷う。だってこんなの尻に入れて歩くだなんて大丈夫なんだろうか。 「大丈夫。本当に辛かったら途中で抜いてあげますから」  目を細めながらローターを舌先で転がす貴臣を見て、卒倒するかと思うくらいに胸がドキドキした。  そうか、貴臣がそう言うのだったら大丈夫だ。やってみて無理だったらやめればいいんだ。  それにあまりここに長居はできない。2人で個室に入っているところを誰かに気付かれたらまずい。  意を決して、俺は貴臣の方に背中を向け、ズボンを下着ごと太腿までずり下げた。サメくんをギュッと抱きしめながら、上半身を前へ倒す。 「は、はやく、して……」  下半身を露出して、義理の弟に向かって尻を突き出す羞恥。  貴臣はクスクスと笑いながら俺の肌に手を這わせ、双丘を親指で押して奥の蕾を開いた。  (ひだ)が見られているのだと思うとそれだけで悲鳴を上げそうになるが、あっと言う間に卵形のローターを埋め込まれ、少しの痛みも感じずに終わった。  いいですよと言われたので、下着とズボンを履き直す。  真っ直ぐに立ってみると、思ってたよりは辛くない。だが小さくたって異物は異物だ。違和感が半端ない。   「では行きましょうか」  耳を澄ませ、周りに人がいないのを確かめてトイレを出た。  さっき楽々と下りてきた階段を、今度はゆっくりと慎重に上る羽目になった。足を動かすたび、アレがますます奥に呑み込まれていくようで落ち着かない。  すれ違う人たちが皆、俺をジッと見ている。尻に玩具を入れて歩いてる変態だって気付かれてるのかもしれない。  いや、そんなの自意識過剰で、皆が見ているのは俺が持っているジンベエザメだ。行き過ぎた妄想をして、勝手に興奮し出しているのには自分でも気がついていた。

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