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第20話 貴臣とお出かけ
約束通りディスカウントストアにやってきた俺たちは、店内を見てまわった。
衣料品や食品、パーティグッズまで幅広く取り揃えられたここは7階建てで、すべてをじっくり見るとなれば相当時間がかかる。
海外の珍しいお菓子が激安だったので足を止めて見ていたら、貴臣に怒られた。
「兄さん。さっきから寄り道しすぎ。いつまで経ってもお目当ての物が買えないですよ」
腕を引っ張られながらたどり着いたのは、怪しいグッズが置いてあるコーナーだ。カップルらしき男女がいるのが気になって、なかなか商品が置いてある棚に近づけない。
だが貴臣は堂々とその棚の前に立ち、ピンク色の箱を手にとってじっくり見ている。
「これなんかいいんじゃないですか? 値段も手頃ですし……あれ、兄さん?」
俺が隣にいないことに気付いた貴臣は、キョロキョロと辺りを見渡す。店の隅からじっと様子を窺う俺を見つけると、その箱を持ってこちらに近づいてきた。
「これどうですか」
「ソレ持ってこっち来んな! 恥ずかしいから声を落とせよっ! 聞かれるだろっ」
わーっと耳を手で塞ぐが、そこの男女にやり取りをバッチリ見られてしまった。
「ですから、兄さんの方がよっぽど大きな声を出していますよ。兄さんが使うんですから、ちゃんと見て選んでくださいよ」
「分かったからもう何も言うな。俺たちの関係が怪しまれる」
「誰も気にしてませんよ。ほら、どれがいいんですか」
また引っ張られて、棚の前に連れていかれる。
ていうかこんなに沢山の種類があるなんて知らなかった。
どれがいいのかなんて全く分からないが、とりあえず貴臣がお勧めしたやつで、と言った。
これで終了だと思ったが、貴臣はまだそこから動かずに一つずつじっくりと商品を見ている。また少し距離を取って眺めていたら、さっきのよりも大きめな箱を持ってきた。
「これも買っておきましょう」
「おい」
俺の許可を得ずに購入しようとしている貴臣を全力で阻止する。
「そんなの買ってどうすんだよっ」
「後々、これも必要になると思いますから」
「後々っていつ⁈」
貴臣は片眉を上げて、大袈裟にため息を吐いた。
「兄さんって多分ネコでしょう? しかもバリがつく」
「俺は人間だ!」
「そんなボケいりませんよ。兄さんの為を思って言ってるんです。ちゃんと慣らしておかないと、いざという時に怪我をしますからね」
卑猥。あぁ卑猥。
貴臣って相当むっつりスケベだよな。
俺の為とか言って、それも手伝ってくれる予定なの?
それはそれで恥ずかしいような、でも貴臣の前だったらもうこの際恥じらう必要はないような複雑な思いで違うコーナーへ行く。
今度は健全な場所だけど、貴臣がカゴに入れているのは筆やロープやアイマスク。
見てない。俺は何も見てないぞ。
後ろについて歩いている途中、ふと貴臣が立ち止まったので、その背中に顔から突っ込んでしまった。
「ぶっ」
「これも……買おうかな」
見ると、ジンベエザメの形をした抱き枕がワゴンに積み重なっていた。
本来は二千円する商品が、千円以下に値下がっている。
低反発で肌触りもいい。サメの顔もかわいいし、これを抱いて寝たらいい夢見れそうだ。
「ふっ。貴臣、顔に似合わずこういうの好きなんだ? いいよ、買えば?」
「いいですか?」
「貴臣が使うんだから好きにしろよ」
「いえ……兄さんも使うかなと」
「シェアすんの? まぁ別にいいけど」
特に疑問も抱かないまま、俺は一足先に店を出る。
支払いを終えた貴臣の手には、ビニール袋と剥き出しのジンベエザメがあった。
サメくんを入れるちょうどいい袋がなかったらしい。
電車の中で周りにクスクス笑われても、貴臣は気にするふうもなく堂々と小脇に抱えていた。
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