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第19話 束の間の休息

「へぇ、良かったですね。焦らなくてもいいだなんて、心の広い先輩ですね」 「だろ? だから性癖理解は、少しずつしていけばいいことになった。先輩は俺をずっと待っていてくれるって言ってたし……あー、もうちょっと上もお願い」  自分のベッドにうつ伏せて、図々しくも足のマッサージをお願いしている。  貴臣の部屋に行きたくなかったのは昨日のせいだ。  昨日、洗面所と部屋を何度か往復し、床をアミノ酸系洗浄剤を使って綺麗に掃除している貴臣を見て申し訳なくなった。  昨日の今日であの部屋に入るのはなんだか気が引ける。 「しかし、待つといってもそれなりに限度があるでしょう。なるべく早くに越したことはありませんよ」  貴臣の指押しに筋肉が反応して、ピクンと足が跳ねる。  確かにそれもそうか。  俺だっていち早くお付き合いして、先輩が好きなおうちデートってやつをしてみたい。 「そうだよな。早くに越したことはない。でも流石に今日は休んでもいいだろ? 俺、この2日いろいろとあり過ぎて体が悲鳴を上げてるよ」 「そうですね。確かにいきなり、詰め込みすぎたかもしれません」  結局この日のレッスンは行わないことになった。  マッサージが終わったので起き上がり、ベッドの上に座り込む。  ホホバオイルの蓋を閉め、後片付けをしている貴臣を見て提案した。 「なぁ、俺も貴臣のことマッサージしてもいい?」 「え? どうしたんですか。そんなこと言うなんて珍しい」 「ん、なんか、したくなって」  先輩がおうちデートでされたいと言っていたマッサージを、貴臣に試してみたくなったのだ。  貴臣は少し考えこんでから「では、お願いします」と言ってベッドに横たわり、うつ伏せになった。  ホホバオイルを少量垂らし、勘を頼りに両手の平を滑らせる。 「気持ちい?」 「うーん。35点ですかね」 「低っ」  悔しくて力任せに押し付けると、それが思いの外良かったようで「あぁ、そんな感じです」と褒められた。  体重を乗せるようにぐっ、ぐっと体を上下させながら、貴臣の背中に声を掛けた。 「なぁ。昨日と一昨日、お前に変な姿見せちゃったけどさ。ありがとな。協力してくれて」 「え?」 「俺、貴臣と一緒だったらなんでも出来そうな気がしてくる。恥ずかしいことには変わりないんだけどさ。これからも、よろしくね?」  足が急に動いたので、一旦手を離す。  貴臣は起き上がり、きのう漏らしちゃった瞬間みたいに俺と同じ目線になって微笑んだ。 「もちろん。俺は兄さんのためでしたら、どんなことだって出来ますよ。兄さんのエッチな姿も笑った顔も、全部好きです」 「……ありがと」  気恥ずかしくて視線を逸らす。  やっぱり貴臣は俺の自慢の弟だ。絶対に裏切らない俺の味方。  もう一度寝そべってもらい、マッサージを再開した。 「あさって、兄さんは午後からフリーでしたよね?」 「ん? そうだけど」 「でしたら、一緒に買い物に行きませんか?」 「うん、いいよ。何買いたいの?」 「兄さんにいろいろと必要な物を揃えないといけませんからね」 「……それって」  心当たりがありすぎて、ついつい手の動きが鈍ってくる。 「い、いいけど、そんなのどこで買うんだよ」 「大型のディスカウントストアーへ行けば、だいたいの物は手に入りますよ」  あそこか。最近オープンした、陽気なペンギンのキャラクターが目印の店。  貴臣と休日に買い物にいくのは久々なので楽しみではあるが、購入予定の物はとても口に出しては言えない。どうか知り合いには見つからないようにと願うばかりだ。

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