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第29話 怜の気持ち③
貴臣が完治するまで、何度も病院に通った。
貴臣は変わった。
質問の後に質問で返してくれて、ちゃんと会話のキャッチボールができる。実はけっこう話す奴なんだって気付けて嬉しくなった。
『もうそろそろ帰ろうかな。眠れないからって、夜中までスマホでゲームばっかやってんなよ』
『はい、兄さんも期末試験、頑張ってくださいね』
いつの間にか、俺を兄さんと呼んでくれるようになった。
呼ばれる度、俺の胸は湯たんぽのように暖かくなる。
貴臣の着た衣類を持ち帰るのが俺の役目で、いつものように、袋から洗濯物を取り出して洗濯機に入れている最中だった。
貴臣のボクサーパンツを持った俺はふと動きを止めた。
なぜそんなことをしたのかと問われれば、そこにパンツがあったから、と馬鹿みたいな回答をするだろう。
それくらい、無意識だった。
貴臣の下着を鼻に押しつけ、大きく息を吸い込んでいた。
わずかに香る、貴臣の匂い。
鼻腔をくすぐったその恥ずかしい匂いは、俺とはちょっと違う匂いだった。
「あっ」となって、洗濯機にそれを放り込んで部屋に駆け込み、タオルケットに包まった。
(俺っ、今、何して……)
違う。今のはちょっと確認っていうか。
パンツを持ってる最中に、鼻を掻きたくなって。
いろいろと自分に言い訳をしてみるものの、股間は硬度を増しているし、全然説得力がなかった。
ずっと蓋をして誤魔化してきたが、ついに中身が溢れた。
貴臣が、好きだ。
とんだ変態行為は、その後もやめられなかった。
決してバレることがない、バレたらいけない秘密のこと。
貴臣が退院して家に戻ってからは、さすがにやらなかったけど。
まるで憑物が落ちたかのように貴臣は優しくなり、それからは本当に、本物の兄弟みたいになった。
ただ1つ、俺の貴臣に対する特別な感情を除いては。
貴臣が一緒に風呂に入ろうと誘ってきた時はヤバかった。
狭い湯船の中で何度も肌がこすれて、体の中心が反応して。
食事をする時、一緒に出かける時。
いつも貴臣を目で追ってしまう。
何度、お前に思いを馳せながら抜いたことか。
ある時、ベッドの上ではぁはぁと荒い呼吸をしながら、俺はついに決意した。
こんなんじゃ、ダメだ。
はやく他に、好きな人を作らなくちゃ。
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