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第30話 怜の気持ち④*

 誰でも良かったわけじゃないが、特段嫌なところがなければ好きになる努力をした。  まずはクラスメイトの友人に。  雰囲気と見た目が、少しだけ貴臣に似ていたという理由で。  まるで暗示のように、俺はこいつが好きなんだと言い聞かせれば、本当にどんどん好きになっていくような気がした。  その友人と歩いているところを貴臣に見つかり、声を掛けられた事がある。  俺は友人の腕を引っ張って話しかけたり、顔を覗き込んで見つめたりした。  少々やり過ぎだと思ったが、貴臣はちゃんと気付いてくれた。 『兄さん、今日一緒に歩いていた人のことが好きなんですか』 『うん。バレてた?』  誰かに恋をしていれば、貴臣にバレることはない。  実はお前が好きなこと。  バレちゃいけない。  でも本当の気持ちに、気付いてほしい。  天秤にかけられた思いは時に、片方だけぐっと沈む場合がある。  それは例えば、暗闇の部屋でいやしい気分になっている時。  夜中、貴臣が廊下を歩く足音が聞こえた俺は、わざと声を漏らした。 『ふ……っ、……ぅ』  すぐにスマホを光らせたけど、動画なんてまともに見ていなかった。  お前に思いを馳せながら、今まで何回も自慰をしているんだ。それを思い知らせてやりたくなった。  こんなことをしても何もならないのに。  やっちゃいけないことをやりたくなるのは、人間の(さが)なのか。 『ぁ……っ』   ドアを開けられたのは気配で分かったけど、閉じた気配もしない。  見られているのかもしれない。  そう考えるとドキドキして、なかなか絶頂までたどり着けなかった。  結局、俺は背後を振り向けないまま、長い時間をかけた後で達した。  まさか最後まで見られていただなんて予想外だったけど――     「……い……怜! 聞いてる?」  物思いにふけっていた俺はハッとする。 「ごめん、ちょっとボーッとしてた」 「ちゃんと聞けよ。これ、血のりね。本番は顔も白く塗ったくるんだぞ? おけ?」 「あぁはいはい、これね、オッケー」  クラスメイトに手渡された瓶の中には真っ赤な液体が入っている。  今度の文化祭で、クラスの出し物のお化け屋敷で使うものだ。ジャンケンで負けた俺は、井戸から出るお化け役に任命された。  今週の土日が高校の文化祭だ。  それまでは部活も休みになって、授業の半分は文化祭準備に当てられる。  放課後の今も、机を教室の後ろに移動してせっせと物づくりに励んでいる。みんな浮き足立ってる状況だ。

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