30 / 124
第30話 怜の気持ち④*
誰でも良かったわけじゃないが、特段嫌なところがなければ好きになる努力をした。
まずはクラスメイトの友人に。
雰囲気と見た目が、少しだけ貴臣に似ていたという理由で。
まるで暗示のように、俺はこいつが好きなんだと言い聞かせれば、本当にどんどん好きになっていくような気がした。
その友人と歩いているところを貴臣に見つかり、声を掛けられた事がある。
俺は友人の腕を引っ張って話しかけたり、顔を覗き込んで見つめたりした。
少々やり過ぎだと思ったが、貴臣はちゃんと気付いてくれた。
『兄さん、今日一緒に歩いていた人のことが好きなんですか』
『うん。バレてた?』
誰かに恋をしていれば、貴臣にバレることはない。
実はお前が好きなこと。
バレちゃいけない。
でも本当の気持ちに、気付いてほしい。
天秤にかけられた思いは時に、片方だけぐっと沈む場合がある。
それは例えば、暗闇の部屋でいやしい気分になっている時。
夜中、貴臣が廊下を歩く足音が聞こえた俺は、わざと声を漏らした。
『ふ……っ、……ぅ』
すぐにスマホを光らせたけど、動画なんてまともに見ていなかった。
お前に思いを馳せながら、今まで何回も自慰をしているんだ。それを思い知らせてやりたくなった。
こんなことをしても何もならないのに。
やっちゃいけないことをやりたくなるのは、人間の性 なのか。
『ぁ……っ』
ドアを開けられたのは気配で分かったけど、閉じた気配もしない。
見られているのかもしれない。
そう考えるとドキドキして、なかなか絶頂までたどり着けなかった。
結局、俺は背後を振り向けないまま、長い時間をかけた後で達した。
まさか最後まで見られていただなんて予想外だったけど――
「……い……怜! 聞いてる?」
物思いにふけっていた俺はハッとする。
「ごめん、ちょっとボーッとしてた」
「ちゃんと聞けよ。これ、血のりね。本番は顔も白く塗ったくるんだぞ? おけ?」
「あぁはいはい、これね、オッケー」
クラスメイトに手渡された瓶の中には真っ赤な液体が入っている。
今度の文化祭で、クラスの出し物のお化け屋敷で使うものだ。ジャンケンで負けた俺は、井戸から出るお化け役に任命された。
今週の土日が高校の文化祭だ。
それまでは部活も休みになって、授業の半分は文化祭準備に当てられる。
放課後の今も、机を教室の後ろに移動してせっせと物づくりに励んでいる。みんな浮き足立ってる状況だ。
ともだちにシェアしよう!