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第31話 血のりとダメ出し

 俺は血のりの瓶を床に置いて、段ボールで作った井戸に絵の具で色を付けていく。  とりあえず真正面だけはちゃんと見えればいいと思って、後ろは適当に塗っていたら委員長にダメ出しされた。 「中田くん、手抜きしたらダメじゃないか。お客さんは意外と細かいところまで見ているんだぞ! あとこれ、隅までしっかり色がついてない」 「はいはーい、ちゃんとやりまーす」  学級委員の久保(く ぼ)くんは、学校の行事がある度にやたらと張り切る。  当日は教室を真っ暗にするし、そんな隅々まで見られるとは思わないけど……とは言わずに大人しく作業を再開する。    床に座って筆でペタペタと塗るのは、どうしても肩がこる。  こういう細かい作業は苦手なんだよなぁ。  ちょっと伸びをしようと両手両足を動かした時、足に何かが勢いよく当たって転がった。  ギョッとして見ると、血のりが入った瓶が倒れて中身が床に溢れていた。 「あぁー中田ぁ、何やってんだよー」とクラスの誰かに言われて慌てて瓶を持ち上げるが、中身の半分ほどがなくなっている。  久保くんがまた、怖い顔してこっちにやってきた。 「中田くーん……?」 「あっ、大丈夫! ほら、半分くらいは残ってるし!」 「そんな量じゃ足りないよ〜? 君は顔だけじゃなくて白装束にも血をつけまくる予定なんだから」 「じゃあ、変更して顔だけにしようよ」 「腹を切られて井戸に落とされた女の幽霊なんだから、顔だけってのはおかしいでしょう〜」  こだわりが強すぎる久保くんに気圧(けお)され、ホームセンターへ買いにいく羽目になった。  ちょっと面倒だとは思ったが、細かい作業をするよりかは買い出しに来る方がマシかもしれない。  ちょうどもうすぐハロウィンなので、入り口に特設スペースがあり、血のりはすぐに見つけられた。  すぐに学校に帰るのももったいない気がしたので、そのまま店を散策してみようと奥に進む。すると貴臣の高校の制服を着た生徒を数人見かけた。  貴臣の高校もうちと同日に文化祭があるから、何か見に来たのかも。  聞いたところによると、貴臣はカフェの店員役をやるらしい。  あんなイケメンがテーブルにドリンクを運んできた日には、世の女子たちは簡単にメロメロになるんだろうな。  行きたいのはやまやまだが、日にちが被っているのであればしょうがない。  さらに奥に行って文具コーナーを散策する。  あぁそういえば、前に貴臣が新しい三色ボールペンが欲しいと言っていたかも。  適当にペンを取って紙に試し書きしている時だった。 「怜くん?」  振り向けば、随分と久しぶりに見る、黒い学ラン姿の男が立っていた。 「(あき)くん」 「あぁ、やっぱり怜くんだ」  まだあどけなさの残る顔立ち、だけど目元や輪郭は、貴臣にそっくりな男。  吉岡 秋臣(よしおか あきおみ)くん。  貴臣の弟だ。

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