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第34話 兄弟の確執?

「秋くんは? 彼女とかいないの?」  見た目は貴臣と同じくらいに格好いいから、きっとモテるだろうし彼女もいるだろう。  けど秋くんはすぐにかぶりを振る。 「いないよ~。俺美術部だし、学校では暗くて大人しい方だし」 「そんなに明るくて活発な人が、暗くて大人しいわけないでしょ」 「本当だよ? 俺、存在感ないから。教室にいてもいなくてもおんなじ、どうでもいい人なんだ」 「またまたぁ」  流石に何度もホイホイ騙されないぞ。  適当に相槌を打って流したら、急に秋くんは口を噤んで目を伏せたので焦ってしまった。 「え……ごめん、本当のことだった?」 「嘘に決まってんじゃん! 怜くん、そんな簡単に騙されてたら将来大変だよ~?」  ぐぬぬ、となりながらコーラの空き容器を手でベコッと潰す。  中坊に将来の心配なんかされたくないわ。  秋くんは笑いを堪えながら、持っていたバッグからスケッチブックを取り出した。表紙をめくって、白い厚紙の上に尖った鉛筆の先をあてて滑らせていく。 「もしかして、俺のこと描いてる?」 「ううん、描いてないよ」  だったら時折、俺の顔をチラチラと見ているのはなんなんだ。   さっきまでは子供っぽかったのに、そんな真剣な表情を見せられるとちょっとドキッとする。  やっぱり貴臣に似ている。切れ長の綺麗な瞳と、長い睫毛、スッと通った鼻筋。父さんにはあまり似ていないから、母親の遺伝子を多く受け継いだんだろう。  魅入っているうちに、ふとした感情が沸いてきた。  1度でいいから、秋臣くんと貴臣が喋っているところを見てみたい。  喧嘩でもしているんだろうか。  それともただ単に、顔を合わせるのが恥ずかしくて互いに遠慮しているだけなのか。  いろんな憶測が飛び交っている頭で、俺は提案した。 「今週の土日、どっちか暇?」 「うん、どっちも暇だよ! あぁ、文化祭やるんだよね? 俺行っちゃおうかな」 「貴臣の高校も、同じ日に文化祭やるんだけどさ」  秋くんは途端に黙る。 「俺の高校も貴臣の高校も、日曜日が一般公開なんだ。土曜日は家族とOBだけ。土曜日、貴臣の高校を見に行ってみたら? ちょうど招待状持ってるから」 「なんで? 俺家族じゃないじゃん」 「か、家族だよ。離婚してても、秋くんは貴臣の弟だよ」 「……」 「まだ早いかもしれないけど、高校の雰囲気もよく分かるから進路決める時に参考になるし、それに貴臣のクラスは喫茶店やるって言ってて」 「ふーん」 「……」  会話しゅーりょー。  スケッチブックの上を滑る鉛筆の音と、まわりの喧騒のみになった。  やっぱり地雷だったのか。でもこれはいい機会だ。  何かあったにしろ、昔一緒に住んでいた頃は仲良くしていたに違いない。だって自分と血の繋がった唯一の兄貴なんだから。  俺との時もそうだったけど、何かのきっかけがあれば貴臣は話してくれるようになる気がするんだよな。 「あいつウェイター役やるんだって。白いシャツにギャルソンエプロン付けてさ。昨日、その格好して家でコーヒー煎れる練習してて笑っちゃったよ。どんだけ女子に良く見られたいんだっていう……」 「でーきた。はいこれ、あげる」  スケッチブックからベリベリッと剥がされた紙を渡され、目を見開いた。 「へのへのもへじじゃん!」 「怜くんが変なこと言うから、集中力切れちゃった」  秋くんはツンとしたまま、自分のトレイを持って立ち上がり行ってしまった。  秋くんの心を開かせるには、なかなか難しい問題なのかもしれない。

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