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第33話 秋臣と怜

 秋くんと、小さなテーブルを挟んで向かいに座った。  チーズハンバーガーにガブリと噛みつけば、肉汁が溢れてうまかった。   「委員長に連絡した?」 「いや、まだ。あいつ勘が鋭いから、下手に嘘吐くとばれそうで。でも連絡しないと、そろそろ向こうから連絡来そうで怖い」 「家庭の事情でって言いなよ。そしたら向こうも深く突っ込んでこないから」 「えぇーマジ?」  秋くんはまた「大丈夫大丈夫~」と言って笑ってポテトをつまんだ。  そうか、秋くんが大丈夫って言うなら大丈夫か……  ん、なんだかこの気持ち、ついこの間も感じた気が。  委員長にメッセージを送り、俺もポテトを口に運ぶ。 「秋くん、最近どう? 調子は」 「だから怜くん、言い方がおじさんくさいよ。えっと、調子? 良さそうに見える?」 「うん、まぁ、顔色は悪くないし……」 「あーあ。怜くんはこれだから」  秋くんは途端に目を伏せて俯く。  え、急にしんみりしちゃったけど。  まさか何か問題でも? 「お、俺で良ければ、話聞くけど」 「あぁうん。ありがとう。実は俺を面倒見てくれてる人たちが、毎日意地悪してくるんだ」 「えっ? お母さんの親戚の人たちってこと? 何を意地悪されてるの?」 「やっぱり本当の子供じゃないからだろうね。ご飯は俺だけ別に用意されて質素だし、毎朝5時起きして家中を掃除させられて、学校から帰ってからも同じ。指の感覚がなくなるまで2人のマッサージをさせられて、寝るのはだいたい夜中の1時過ぎ。まるで奴隷みたいで、なんか疲れちゃった」 「えっ、そんな、酷い!」  俺は身を乗り出して、秋くんの手を掴んだ。 「秋くんが我慢する必要はないよ。すぐに逃げた方がいい」 「だって、どこに逃げるの?」 「う、うちとかにさ」  俺にそんなことを言える権限はないけれど、咄嗟に言ってしまった。  秋くんは俺に手をギュッと握られて、少々涙目になっている。 「ほんと~? 怜くん、俺をあの家に置いてくれるの……?」 「家帰ったら父さんに相談してみるよ! 秋くんに辛い思いさせたくないし!」 「怜くん……」  見つめあって数秒後、秋くんは急にふっと噴き出した。 「あはは! 怜くんってすぐ騙されるよね~! 今の話、全部嘘だよ。あ、夜中の1時くらいに寝るっていうのだけは本当」 「はぁ……?」  秋くんはしてやったりという顔でジュースを飲みつつ俺を見る。  まさか俺は今、中学2年のガキんちょに揶揄われたのか?!   「あ、怒った? これあげるから許して~」  ポテトを1本口に突っ込まれるけど、これは元から俺の分だ。  秋くんと会うのは、これが3度目か、4度目か。  俺も勉強しないな。  そういえば毎回、何かしら小さな嘘を吐かれていた。  最近芸能事務所にスカウトされたとか、スマホをなくして大変な思いをしたとか。  その度に過剰に反応してしまうのだが、あまりにもスマートに嘘を吐くから見分けがつかないのだ。  俺はため息を吐いて、コーラを一気飲みした。 「じゃあ、家ではちゃんと、うまくやれてるんだね?」 「うん。俺にめっちゃ優しくしてくれるよ。この間の俺の誕生日は御馳走ばっかりだったし、プレゼントまで用意してくれてたし」 「ふぅん。それは良かったねぇ」  初めっからそうやって言えばいいのに。  どうして嘘吐いて揶揄うんだろう。  そんなに俺をハメるの、面白い? 「怜くんは最近調子はどう?」 「あーうん、まぁまぁかな」 「好きな人に告るって言ってたじゃん。あれどうなったの?」  俺はまた、誤魔化すようにコーラを飲む。  秋くんとはたまにメッセージのやり取りをする。この間なんとなく流れとノリで、そんな話をしてしまった。  実はいろいろあって、貴臣とエロいレッスン中だなんて言えないなぁ。 「うん、告白は、したよ」 「おぉー、で? うまくいったの?」 「いや、やっぱり同性はちょっとって断られて」 「そっか。残念だったねぇ」  俺の性事情も知っているけど、特に偏見はないみたいだ。  本当は君の実兄に恋をしているだなんて聞いたら、流石に嫌悪されるかもしれないけど。

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